2326外傷救護の最前線
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131 爆弾によるテロや付随する火災によって患者は熱傷をきたす可能性がある.大量負傷者の発生する事件(mass casualty incident)では20~30%の患者が熱傷患者であり1),事態対処医療において熱傷患者は少なくない.また,爆発による外傷では約40%の負傷者が熱傷を合併することが知られており2),爆弾テロの負傷者では熱傷が15%の割合で報告されている3).つまり,事態対処医療においては爆傷による外傷と熱傷が合併している例が少なくない.爆傷による外傷がある場合には優先的に外傷の治療を行う.一見外傷がない場合でも,頭蓋内出血や肺胞損傷や腹腔内臓器損傷をきたしていることがあるため注意が必要である.これらの外傷がない場合は,通常の熱傷と同様に治療する. 熱傷の初期治療は熱傷の進行の抑制と気道・呼吸・循環の安定,低体温予防を主軸として行う.熱傷は一見すると重症であるが,気道さえ保たれていれば即座に命が脅かされる可能性は低い.よって,熱傷のほかに致死的となる外傷がある場合はそちらの治療を優先して行う.見た目が派手な熱傷にとらわれて外傷を見逃してはならない.また,熱傷では当初は気道開通していても,時間の経過とともに遅発性の気道閉塞をきたす可能性があるため,気道の評価は繰り返し行うことが重要である.概 要11)ホットゾーン まずは周囲の脅威を排除し状況を確認する.負傷者を確認し,衣服が燃えている場合は消火する.呼びかけて気道を確認し,大量出血があるならば止血を行う.負傷者を火災や爆発物の危険のないエリアまで搬送する.ターニケット(止血帯)を用いなければ制御できないような大量出血がある場合は,熱傷よりも出血に対する治療を優先する.2)ウォームゾーン 再度止血と気道の確保を確認し,緊張性気胸など呼吸に異常をきたす病態の合併がないかを観察する.治療の妨げとなる装備や衣服を外す.燃えた衣服や,時計や指輪などの貴金属は熱傷を進行させるため,可能な限り除去する.熱傷の進行を止めるために,熱感を伴う部位は水を用いて冷却してもよい1, 4~6).出血の合併など,循環を不安定にさせる要因がある場合は静脈路の確保と細胞外液の投与を開始する.また熱傷患者は低体温に陥りやすいため,保温を可能な限り行い後送に備える1, 6, 7).Ⅰ.熱傷の救急救護C.外傷別レクチャー◆各 論 熱 傷6●❶  そのほかの外傷と同じく,気道・呼吸・循環の安定と保温が重要である.●❷  体表の熱傷にとらわれて, 気道熱傷やそのほかの外傷(特に爆傷)の合併を見逃さない.●❸ 熱傷範囲に応じて適切な輸液を行う.

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