2333新しいめまいの診断と治療
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A.末梢前庭障害・中枢前庭障害1前庭系の構造身体平衡の維持には,深部知覚運動系と視運動系の2つが主要な系をつくっているが,位置や運動の感覚を鋭敏に感受する機械的受容器である前庭迷路がそれらの間に介在して,2つの系に平衡に関する情報を送り反射を補佐する。前庭迷路から前庭神経核に至り,さらにこの核と密接に連絡する脳幹・小脳を含むネットワーク全体を前庭系とよぶ。半規管膨大部と耳石器平衡斑のセンサーからの信号は前庭神経を経て,延髄の前庭神経核で2次ニューロンとなり,さらにmediallongitudinalfasciculus(MLF)その他として上行して脳幹や小脳の眼運動系に,また一方では(外・内側)前庭脊髄路として下行して,頸部・躯幹・四肢の運動系に投射しつつ一部はさらに上行し,大脳の感覚中枢(上側頭回,他)へ最終的に到達し,頭部の位置や運動を感知する1)。2平衡感覚に異常が起こるメカニズムめまいは平衡感覚異常であり,その意味で平衡を維持する末梢感覚装置から大脳の感覚中枢までの全システムのいずれの障害でもめまいが生じ得るが,多くの疾患でのめまい,またその他覚的所見である眼球振盪・平衡障害は,前庭迷路から脳幹・小脳を含むネットワークである前庭系の障害として発現する。前庭系である三半規管・耳石器・前庭神経・脳幹・小脳を模式化したのが図1である。左右一対のセンサー(三半規管・耳石器)は直線加速度・回転角加速度情報を収集し,その情報を情報分析センター(前庭神経核を中心とする脳幹・小脳)に伝える。情報分析センターでは,これらの情報を解析し,深部知覚運動系と視運動系にバランスを保つよう指令を与えている。情報収集を目的とする三半規管・耳石器・前庭神経は末梢前庭系,そしてその情報を解析する脳幹,小脳は中枢前庭系とよばれるが,末梢・中枢を問わず前庭系の障害により情報の収集やその解析能力に低下や左右差が生じた時にめまいや平衡障害が生じる。そして,めまい・平衡障害の程度は,前庭系の障害の程度や障害が進行する速度によって大きく左右される。末梢前庭系は蝸牛および蝸牛神経と解剖学的に近接し,血管支配も末梢では別であるが,前下小脳動脈の共通の支配下にある。したがって,末梢前庭障害では蝸牛症状(難聴・耳鳴・耳閉塞感)を伴うことが多い。一方,中枢前庭障害では迷路動脈を分枝する前下小脳動脈の循環障害によるものを除き,蝸牛症状を伴うことは少ない。なお,中枢前庭障害は,中枢障害を示唆する症状,所見,とりわけ小脳症状や眼振所見により診断される。2

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