2339小児臨床栄養学 改訂第2版
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114第5章 症候と鑑別診断 腹痛は日常診療,救急診療のいずれにおいても遭遇することの多い訴えの1つである.痛みの機序として内臓痛,体性痛,関連痛があり,複数の機序が重なって症状を呈している場合もある.また,発症形式によって急性腹痛と症状が反復する慢性腹痛があり,その原因は幅広く腹部疾患のみにとどまらない.最も重要なのは,急性腹症において緊急度が高い病態を見逃さないことである.特に腸捻転などの絞扼性腸閉塞や消化管穿孔は手術までの時間が患児の予後に影響するため,疑いがある場合は躊躇なく外科医に相談し,検査は必要最低限にとどめて速やかに手術へ移行する必要がある.1問 診 腹痛の診断において,問診は非常に重要な役割を占める.特に慢性反復性腹痛では,器質的疾患による痛みか,機能性あるいは心因性腹痛かの判断に詳細な病歴聴取が役立つ.一方,患児の状態により緊急性が高い場合は処置を先行して行う場合もある.年少児では「お腹が痛い」という訴えが必ずしも腹痛とは限らないことも念頭におく. 以下の点に留意しながら問診を行う.①年齢,性別.② 発症時期と経過(初発症状か反復性か,発症が突発的か緩徐か,増悪や改善があるかなど).③ 腹痛の性状と程度(鈍痛か疝痛か鋭痛か,持続痛か間欠痛かなど).④腹痛の部位と位置の変化の有無.⑤ そのほかの消化器症状(嚥下痛,嚥下困難,悪心,嘔吐,吐血,便秘,下痢,血便など).⑥ 消化器以外の症状(発熱,頭痛,咽頭痛,胸痛,咳嗽,背部痛,頻尿,血尿など).⑦食事状況(食事内容,食欲,食事と腹痛の関連性).⑧ 日常生活への影響(活気,歩行,遊び,睡眠,通園・通学など).⑨成長障害や体重減少の有無.⑩月経周期と最終月経.⑪ 治療・既往歴(使用中の薬剤,アレルギー,外傷,手術などの既往).⑫ 周囲の罹患状況と家族歴(胃・十二指腸潰瘍,炎症性腸疾患,ポリポーシスなど).2診 察 はじめに重症度と緊急度の高さを判断する必要があるため,意識状態,顔貌や顔色,冷汗の有無,呼吸状態,姿勢,歩行の可否などの全身状態を把握し,バイタルサインを確認する. 診察は患児になるべく恐怖感を与えないように心がける.特に触診は泣いたり緊張したりすると腹部に力が入り,正確な診察ができなくなるため,臥位での診察がむずかしい場合には保護者に抱いてもらった状態での診察も有効である. 視診では,栄養状態や脱水,黄疸の有無,腹部の膨隆,全身の皮疹や紫斑,打撲痕の有無などに注意する.説明がつきにくい鈍的外傷による腹痛は,虐待も考慮する.鼠径ヘルニア嵌頓や急性陰囊症が原因の場合もあるため,鼠径部,陰部の診察も必ず行う. 聴診は腸蠕動音の減弱や亢進,金属音が聴取されるかを確認する. 触診は痛みを訴えている部位から離れた場所から行っていく.どうしても泣き止まない場合は,呼気a鑑別診断のための問診・診察・検査第5章 症候と鑑別診断C腹 痛abdominal pain ●腹痛を訴える疾患は幅広く,腹部以外の疾患の可能性も念頭におく必要がある. ●急性腹症では,わずかな時間が患児の予後に影響する場合があるため,手術などの緊急処置の必要性を迅速に判断する. ●慢性反復性腹痛では,器質的疾患による痛みか機能的あるいは心理的腹痛かを慎重に鑑別する必要がある.ポイント

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