2357スポーツ精神医学 改訂第2版
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アスリートの抑うつ状態1▶抑うつ状態の症状 アスリートは明るく健康的なイメージを周囲から期待され,メンタルヘルスの問題が表面化しにくい傾向がある.しかし実際は,競技によって身体的な故障が生じることがあるのと同様に,競技生活の負荷により精神面の不調が生じ,抑うつ状態を呈することは決してまれではない. 「憂うつ」「気分が落ち込んでいる」などと表現される症状を抑うつ気分といい,これが強い状態を抑うつ状態という.抑うつ状態にも幅があるが,臨床的に注意を要するのは絶望を感じるような気分の落ち込みと,ほとんどすべての活動に対する興味や喜びの喪失がほぼ一日中,毎日続くような抑うつ状態であり,この場合の多くは思考や行動の遅延,食欲減退や睡眠障害などの症状を伴う.抑うつ状態でみられやすい症状を表1にあげるが,アスリートの場合は精神心理面の症状がみえにくく,身体面の症状が発見の糸口となることが多い.2▶抑うつ状態の原因 一般的には競技者が抑うつ状態に陥った際,競技生活におけるプレッシャーや最近の悩み事などを思い浮かべ,そのせいだろうと解釈して放っておかれることも少なくない.しかしこうした対応は,脳や体の病気をはじめうつ病などの精神疾患,オーバートレーニング症候群など,治療が必要な原因を見逃してしまう危険性がある.精神科医は抑うつ状態が特に2週間以上にわたって続く場合,加療を要する疾患が存在する可能性を考えて原因検索を行う.原因を考える際には下記のように,見落とすと危険で対応を急ぐものから順番に可能性を検証していく(図1).1) 脳の器質的な疾患 脳血管障害,脳腫瘍,てんかんのほか,近年ではアメリカンフットボールやボクシングなどA第2章 スポーツにおける精神医学の役割[北里大学メディカルセンター精神科]  山本宏明アスリートの抑うつ状態とオーバートレーニング症候群1◦アスリートも抑うつ状態に陥ることがあり,明らかな症状が2週間以上続く場合は,精神科医師による原因検索が勧められる.◦うつ病とオーバートレーニング症候群は異なる領域で構築されてきた概念だが,競技現場における臨床像には共通点が多い.◦オーバートレーニング症候群で抑うつ状態を伴う場合には,スポーツに通じた精神科医の利用が勧められる.POINTS

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