1 アスリートの抑うつ状態とオーバートレーニング症候群 1312345第2章 スポーツにおける精神医学の役割頭部に衝撃を受ける競技における慢性外傷性脳症が注目されている.頭部受傷歴などの問診や神経学的診察,必要に応じて頭部MRI等の画像診断を行う.2) 身体疾患の影響 甲状腺機能異常などの内分泌系疾患,細菌やウイルスによる感染症,膠原病をはじめとする自己免疫性疾患,睡眠時無呼吸症候群,貧血やビタミン欠乏症など多岐にわたる.問診,身体的診察,血液,尿検査,画像検査等を必要に応じて行う.3) 薬剤や物質の影響 ステロイド薬や抗アレルギー薬,抗菌薬,抗真菌薬,降圧薬,抗精神病薬などのほか,競技者が使用する機会の多い鎮痛薬・抗炎症薬(NSAIDs)も抑うつ状態を誘発し得る薬剤として知られている.またアルコール(酒)はわが国において最も身近で乱用の危険が高く,抑うつ状態を招き得る物質であると考えられる.4) うつ病をはじめとする精神疾患 抑うつ状態を呈する代表的な精神疾患にうつ病があるが,典型的とされるうつ病(メランコリアの特徴を伴ううつ病)のほかにも非定型の特徴を伴ううつ病,月経前不快気分障害,双極性障害,10~20代での発症が多い統合失調症など鑑別を要する精神疾患が存在し,短期間の経過では判断が難しい場合が少なくない.5) 性格や状況に起因するもの,オーバートレーニング症候群 適応障害によって生じる抑うつ状態やパニック障害をはじめとする不安障害,強迫性障害,急性ストレス障害および心的外傷後ストレス障身体面精神心理面競技パフォーマンスの低下疲れやすさ,疲労感の継続,倦怠感筋,腱の痛み,筋力低下起床時心拍数の変化(増加あるいは減少)安静時血圧の上昇動悸,息切れ頭痛,頭重感,めまい嘔気,嘔吐食欲低下,体重減少(時に増加)不眠(早朝覚醒)あるいは過眠性欲減退便秘,下痢風邪をひきやすい等,免疫機能の低下気分の落ち込み興味や喜びの喪失意欲,気力,活気の低下無価値観,罪責感死について繰り返し考える表情が暗く,乏しい自信喪失不安感,焦り,イライラ感情緒不安定思考や行動にブレーキがかかるような感覚注意力,集中力低下決断力の低下表1 アスリートの抑うつ状態でみられる症状(オーバートレーニング症候群でみられる症状)抑うつ状態①脳の器質的な疾患③薬剤や物質の影響②身体疾患の影響④うつ病をはじめとする精神疾患⑤性格や状況に起因するもの,オーバートレーニング症候群図1 抑うつ状態の原因①→⑤の順番で原因検索を行う.
元のページ ../index.html#3