2357スポーツ精神医学 改訂第2版
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1 アスリートの抑うつ状態とオーバートレーニング症候群  1512345第2章 スポーツにおける精神医学の役割(the Prohibited List)に明記されているが,2018年1月時点の基準によればわが国でうつ病に対して通常用いられる内服薬(抗うつ薬〈SSRI,SNRI,NaSSA〉,抗不安薬,睡眠薬)は禁止物質に指定されておらず,特別な手続きなしに使用することができる.注意点として,薬剤の静脈内注入(100mL以上/12時間)は入院,外科手術,または臨床検査の過程で正当に受ける場合を除いて常に禁止されているほか,ADHDやナルコレプシーの治療薬である神経刺激薬(コンサータ®,リタリン®,モディオダール®など)は競技会における禁止物質に指定されている.禁止表国際基準は年に一度以上の頻度で改定されるため常に最新の情報を確認する必要があるが,この際,日本アンチ・ドーピング機構(JADA)のサイト内に設置されている薬の検索システムglobal DRO(https://www.globaldro.com/JP/search)が便利である.オーバートレーニング症候群1▶オーバートレーニング症候群の概念と診断 オーバートレーニング症候群(over training syndrome)は「過剰なトレーニング負荷によって運動能力や競技成績が低下し,短期間の休息では疲労が回復しなくなった状態」を指し,原則的にはほかの疾患を除外したうえで,はじめて診断する.回復に要する期間について欧州スポーツ科学会(ECSS)と米国スポーツ医学会(ACSM)の共同合意声明(2013)2)では,2~3週間以上を要するものをオーバートレーニング症候群とよび,数日から2週間以内で回復するものをオーバーリーチング(overreaching)とよんで区別している. うつ病が“抑うつ”という現象をもとに精神医学領域で研究されてきた概念であるのに対して,オーバートレーニング症候群は“競技パフォーマンス低下”という現象に注目しスポーツ医・科学領域で研究されてきた概念である.異なる領域において形成されてきた二つの概念だが,臨床においては類似した特徴を示し,表1に示した抑うつ状態の症状は,オーバートレーニング症候群の代表的な症状と共通している.このため,アスリートのうつ病が,スポーツ現場においてオーバートレーニング症候群として解釈されることも十分にあり得る.2▶疫学 高強度トレーニングを行うアスリートがオーバートレーニング症候群に陥るリスクは高く,特に持久系競技における報告が多い.米国の学生アスリート(水泳および他の持久系競技)の約10%がオーバートレーニング症候群を経験しているとの報告2)があるほか,米国エリートラB 近年,うつ病という言葉はニュアンスの異なる二つの概念を指して使用されており,いずれを意味しているかに留意すると齟齬が生じにくい.一つ目の“うつ病”は,Kraepelinが躁うつ病(1899年)を提示して以降,病的現象の解釈と病気の成因による分類が検討されるなかで形成されてきた“うつ病”概念であり,“従来診断におけるうつ病”や“内因性うつ病”とも表現される. もう一つの“うつ病”は,一定の特徴をもつ状態像を疾患概念として先に仮定し,そこから現象の解明を試みるアプローチ(操作的診断)において使用される“うつ病”であり,米国精神医学会の診断基準(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition:DSM-5)における“うつ病(DSM-5)/大うつ病”がこれにあたる.本稿においてはこちらの意味で使用している.用語解説うつ病

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