2360産婦人科研修ノート 改訂第3版
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第3章 産科401産科疾患の診断・治療・管理B妊娠中血圧比較的高値,BMI 25以上などの例では注意が必要で,分娩中頻回の血圧測定を心がける4).b 蛋白尿…………………………………・ 妊婦の病的蛋白尿は24時間尿中蛋白排泄量300mg以上が基準.随時尿を用いた試験紙法による判定は偽陽性の頻度が高く,蛋白尿と診断するには2+以上を基準とするのがよい5). 確定診断は24時間蓄尿による定量に変えて随時尿中蛋白クレアチニン比(PC比)0.265(mg/mgCr)以上をもって蛋白尿陽性とすることが多い1).なお2018年の新分類より尿蛋白の多寡による重症分類はなされないことになった1).しかし高度蛋白尿症例では母体の胸腹水や胎児発育不全,母の腎器質的疾患などに注意する必要がある.c 浮腫……………………………………・ 浮腫は診断基準からは除外されているが,顔面に及ぶような全身浮腫の出現例については血圧の上昇傾向や一般検血,凝固・線溶系検査,生化学検査を評価しておきたい.d 子癇……………………………………・ 中枢神経系器質疾患や中毒物質などの原因によらない妊産褥婦の痙攣性疾患である.多くは,先行症状(後述)に引き続いて発症する.脳卒中との鑑別が極めて重要であり,発症後,可能な限り速やかなCTやMRIによる画像診断が必要である.e HELLP症候群………………………・ HELLP症候群(HELLP:hemolysis, elevated liver enzymes, low platelet count):溶血・肝酵素上昇・血小板減少を同時にきたすHDP関連の症候群.腹腔動脈系の局所的攣縮や網内系の微小循環障害によるDIC(disseminated intravascular coagulation),血球破壊,肝障害が本症の病態とされる.HDPの続発症の一つであるが,発症直前まで正常血圧の妊産褥婦の発症もある.腹痛,悪心嘔吐などの症状があれば積極的に血液検査を行い速やかな診断を期す(表1).症状や検査異常が類似する他の疾患との鑑別も重要(表2).3治療についての一般的な考え方・ 原因治療は妊娠の終結しかない.分娩の時期や方法は症例毎の医学的要素や施設毎の条件に応じて決定される.・ 管理の目標は母体の臓器・組織障害や胎児機能不全の防止・早期発見につとめながら,妊娠終結の時期とその方法を決定すること.・ 児が未熟な時期(概ね34週未満)の重症症例では,胎児機能不全や母体の重大な臓器障害がない限り降圧薬療法などで母体の危険を回避しながら,厳重に母児を観察しながら妊娠を継続する.・ 診断当初は重症に分類されなくても短時間に病態が進行して母児の状態が急変することはよくある.このような場合には医療側と患者やその家族との間にトラブルが起こりやすいので,母児の予後について予想可能な事態を診断のついた時点で速やかに説明することが大切.4管理の実際a 入院の適応……………………………・ 胎児発育障害がなく重症ではない高血圧のみの症例や症候の安定している高血圧合併妊娠以外は入院が望ましい.外来フォローの場合は,通常よりも頻回の受診とする.b 注意すべき症状と疑うべき疾患……・ 不眠はHDP患者にしばしばみられることがあり,適宜,眠剤の使用を考慮する.・ 子癇の前駆症状やその他の続発症,母体臓器障害を疑うべき症状は下記のとおり.① 子癇の三大前駆症状:頭痛,眼症状(視野障害,眼華閃発,眼前暗黒感など),

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