第3章 産科403産科疾患の診断・治療・管理Bを疑うときは,CTやMRIなどの画像診断を行う. b. 肺水腫や胸水貯留を疑うときは,胸部単純X線撮影,酸素飽和度測定を実施. c. 視野障害,視覚異常の場合は眼底検査で網膜の状態を観察.・ 帝王切開術前検査:緊急帝王切開に備えた検査(血液検査,心電図,胸部X線など)をできるだけ早く実施.d 非薬物的母体管理について…………1) 安静療法・ 軽症例では安静による浮腫軽減,血圧安定化,子宮胎盤血流増加による胎児発育促進,腎血流増加による腎機能改善を期待する.ただし,安静が有効とのエビデンスはない.2) 食事療法・ 食事は,栄養素のバランスがとれ適切なカロリー量であればよい.近年,諸家の報告ではHDP管理における過度の食塩制限は有害とするものが多く,1日量7~10gとするのが妥当.e 薬物療法………………………………1) 降圧薬療法・ 目的:母体の保護(頭蓋内出血,心不全,子癇発症の防止)・ 降圧薬開始の具体的基準:重症高血圧である収縮期血圧160mmHg以上,拡張期血圧110mmHg以上を目安とする.腎機能障害例の加重型妊娠高血圧腎症では軽症高血圧でも降圧薬開始を考慮する.・ 降圧の目標値:拡張期血圧を90~100mmHgの範囲に,収縮期血圧が155~160mmHgを超えないようにする,平均血圧を15~20%以内の幅で下げる,などを目安とする2).急激あるいは過度の降圧による子宮胎盤循環灌流圧低下,胎盤機能低下を避けねばならない.・ 用いる降圧薬:重症高血圧や重症HDPの範ちゅうに入るHDP症例は入院管理下で降圧療法が行われることになる.一方,母体の生理機能が安定している高血圧合併妊婦は外来での降圧薬療法が可能である. 経口降圧薬としては第一選択薬としてラベタロールやニフェジピン(妊娠20週以降)メチルドパ(高血圧合併妊婦に対して)が使いやすい. 速やかな降圧が求められる場合(180/120mmHgを超えるような場合や,子癇前駆症状を伴う高血圧)は,作用発現時間や血中半減期の点から調節性に優れるニカルジピン静注製剤が有用である.主な薬剤の使用法を表3に示す.2) 利尿薬・ 妊娠高血圧腎症妊婦の多くは循環血液量が減少しているので,浮腫が認められても肺水腫や心不全などの病態がない限り利尿薬は使用しない.3) 硫酸マグネシウム・ 硫酸マグネシウムの子癇予防効果,再発防止効果は高いエビデンスレベルで認められている4).したがって,子癇の前駆症状を呈する妊婦のみならず,重症HDP症例では分娩開始時から産褥24時間で使用することがある.ただし,硫酸マグネシウムのもつ降圧効果は弱いので,重症高血圧があれば降圧薬を併用する.表4に使用法を挙げる.・ 硫酸マグネシウム使用時の最大の注意点はマグネシウム中毒の防止である.Mg血中濃度が測定できないときは,腱反射が保たれていることを確認する.それを見逃すと,呼吸筋麻痺をきたす.また,急激な血中濃度の増加は心停止の恐れがある.・ カルシウム拮抗薬併用時は過度の降圧に注意する・ 乏尿があれば投与速度が変わらなくてもMg血中濃度が急激に増加し,マグネシウム中毒となりやすい.・ 全身麻酔時は神経筋接合部がMgイオン
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