2360産婦人科研修ノート 改訂第3版
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第3章 産科405産科疾患の診断・治療・管理B 多くの医学生や研修医には,産科は比較的狭い特殊な領域であると思われているかもしれない.しかしこの領域の診療は,臨床医として学ぶべき多くの基本的要素を含んでいる.まず,ここではきわめて高度のプライバシー保持が求められる.性器の診察のみならず,性行動や過去の人工妊娠中絶歴や離婚歴聴取など,専門家としての信頼が得られなければ不可能であろう.次に,出生前診断に代表される倫理問題を避けて通ることはできない.この問題を考えるにあたっては,受診した方々の願いを正しく理解することが重要であるが,一方では社会が医療に対し何を期待し,何を批判しているかについて,常にセンサーを働かせておくことが必要である.また,疾病治療という個体の保存に関する欲求と,種の保存という本能に関わる欲求が時に相反することがある.たとえば,「私は死んでもいいから赤ちゃんを産みたい」,というような女性にどう対応すべきであろうか.もちろんマニュアルは存在しない.ご本人やそのパートナーや肉親との間でできる限り合意を得ておくのが望まれる. 最後に,本来は病気ではないお産の医療では,「安全」は必要条件にしかすぎない.健全な子育てのためには,出産の場において女性が安心,満足,快適かつ達成感を得ることができるよう,様々な面での心配りが重要である.これは「サービス業としての医療」の原点ともいえるだろう.若い人が短期間でも産科診療を経験することは,将来の医療人としての総合的な技量を高めていただくためにとても役に立つのではないか,と思う.そして,その中から一人でも多くの産科スペシャリストが生まれることを願っている.(山崎峰夫)産科医療の現場にて1) 日本妊娠高血圧学会:妊娠高血圧症候群新定義・臨床分類(第70回日本産科婦人科学会学術講演会 平成30年5月13日).2018 http://www.jsshp.jp/journal/pdf/20180625_teigi_kaiteian.pdf(2018年7月16日閲覧)2) 日本妊娠高血圧学会(編):妊娠高血圧症候群の診療指針2015 Best Practice Guide.20153) 大口昭英,他:妊娠と高血圧-内科医・産科医のための薬剤療法マニュアル.日本妊娠高血圧学会(編),金原出版,2013:46-524) 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会(編・監):産婦人科診療ガイドライン―産科編 2017.20175) Makihara N, et al.: Kobe J Med Sci. 2011;56:E165-72医療法人社団純心会パルモア病院 山崎峰夫文献  子癇の前兆や,HELLP症候群をはじめとした母体合併症に関連する症状や徴候を見逃すな 降圧薬により血圧を下げすぎてはいけない(特に,降圧薬の持続静注時には注意が必要). 分娩後48時間はバイタルサインを厳重に監視する,分娩時(手術時)出血の過少評価や血腫による重篤な貧血を見逃してはならない.DON’Ts

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