107第12章 ■ マルチレベル分析第12章このように,マルチレベル分析では,固定効果と変量効果の両方を表現することが可能であるため,混合モデルともよばれる.具体的にマルチレベル分析を用いた論文を解読してみる.次の論文は「住民の健康度」に与える影響として,「個人」の年齢や所得,婚姻の状況以外に,地域の影響(地域の信頼感や所得格差)がどの程度影響を与えているかを研究したものである.この研究では,従属変数として,健康自覚度(1=普通/不良,0=非常に良い/良い)を用いている1).そこで,階層データとして,1次レベル:住民(個人)2次レベル:地域が成り立つ.変数としては,個人レベルの変数として,年齢・婚姻・学歴・住居の種別・所得が用いられ,地域レベルの変数として,平均等価所得★1・信頼度(人を信用できると回答した人の地域ごとの割合%)・ジニ係数★2が用いられた.この研究では,地域間のばらつき(変動)がみられた場合,その要因が,個人の属性の違いによるものか(構成効果:収入や教育など個人レベルの要因の効果のこと)あるいは,地域の特性(文脈効果:住んでいる地域が健康に与える要因のこと)によるものかを検討する.結果の一部を表11)に示す.まず,モデル1として,個人レベルの変数を何もいれない,つまり「null model★3」で分析が行われた.このモデルは,地域間の分散があるかどうかを示すために行う.この場合,地域間のばらつき(変動=分散)は,表の1番下にある0.026で,標準誤差は2.48である.モデル1の切片は,-0.90である.健康自覚度の地域の平均は-0.90で,地域間分散は0.026ということになる.このとき,P=0.01で地域間の分散は有意であることが示唆される.次に,この地域間のばらつきが何によってもたらされているかを示す.まず,個人の特性(年齢・婚姻・学歴・住居の種別・所得)を独立変数に加えたモデル2を実施する.ここで得られた,地域間の分散(表の1番下)0.012とnull modelで得られた0.026を比較する.地域間のばらつきが,個別の特性を考慮することで,減少している.〔(0.026-0.012)/0.026〕×100=53.8%となり,地域間のばらつきのうち,約54%は個々の特性である性・年齢・所得・教育歴・住居で説明できることになる.さらにモデル3では,地域の要因として平均等価所得・信頼度を加えている.モデル2からさら2マルチレベル分析の読み方図2 切片と傾きの変動(分散)血圧値食塩摂取量傾きの変動(分散)切片の変動(分散)地域C地域A地域Bnote ★1平均等価所得:世帯の構成員の生活水準を表すように調整した所得のことで,世帯所得を世帯人数の平方根で割ったもの.note ★2ジニ係数:所得や資産の不平等あるいは格差をはかる尺度.均等に分配されている場合は0となり,1に近づくほど不平等度が高い.note ★3null model:独立変数を含まない,切片のみからなるモデル.従属変数を切片のみで回帰するモデル.
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