2369シェーグレン症候群の診断と治療マニュアル 改訂第3版
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40第2章 病因・病態ジェニックマウスにはFas L陽性CD4+T細胞を介したアポトーシスがみられることが明らかとなり,EBウイルス感染と唾液腺破壊の関連が示唆された.また,1989年にGreenら22)は,レトロウイルスである成人T細胞白血病ウイルスⅠ(hu-man T-cell leukemia virus type Ⅰ:HTLV-Ⅰ)のtax遺伝子を導入したマウスにおいて,SSに酷似した唾液腺炎および涙腺炎の発現を報告した.興味あることに,このトランスジェニックマウスにおいては,外分泌腺へのリンパ球浸潤とともに,導管上皮の増生が生じることを報告している.HTLV-Ⅰ感染の場合は後述するように,外分泌腺炎を生じるのみならず,腺組織側への影響も示唆される.3Sjögren症候群唾液腺における抗アポトーシス蛋白の関与唾液腺でのFas/Fas Lシステムに対し,Bcl-2 ファミリーの関与がこれまでに報告されている.Moutsopoulosのグループ23)は,Fas,Fas Lおよびアポトーシスを促進するBax蛋白が,SS唾液腺の導管・腺房上皮細胞のいずれにも発現しているが,アポトーシスを抑制するBcl-2は浸潤リンパ球にのみ発現していることを報告した.われわれの検討24)でも,唾液腺浸潤単核球はBcl-2,Bcl-xはCD40とともに,アポトーシスから免れ(図2),表面に発現するFas Lによって慢性的に唾液腺細胞障害をきたしうることが示唆された.また,SS末梢血においてCD40 Lの発現は認められなかったが,唾液腺浸潤単核球にはCD40 Lが発現しており,唾液腺局所における浸潤単核球がアポトーシスと自己抗体産生に強く関与していることが示された.さらに,CD40の下流に存在するmitogen activated protein kinase(MAP ki-nase)スーパーファミリーの発現も検討したが,c-Jun N-terminal kinase(JNK),p38の浸潤単核球における発現が観察され,SS唾液腺の慢性炎症に関与していることが示唆された25).次に,われわれはSS唾液腺における増殖因子によるアポトーシス抑制について検討した.マウスにおいて唾液腺除去を行うと血清中のepider-mal growth factor(EGF)濃度が減少することから,EGFが唾液腺から分泌される増殖因子の1つであることが知られている26).このため,SS唾液腺でのEGFおよびその下流の分子発現について検討した27).SS唾液腺組織では,コントロールに比して導管上皮に強いリン酸化されたAktの発現が観察され,nuclear factor(NF)-κBはSS唾液腺上皮細胞の核に染色されることが示された.培養唾液腺上皮細胞を用いた検討では,EGF刺激によりAktも活性化されることが示された.NF-κBはEGF刺激30分で細胞質から核へのtranslocationをきたしたが,phosphatidyli-HO-2・HSP-27活性化RNAウイルスアポトーシス抑制アポトーシスRIPFADDcaspase 3EGFTRIF会合TLR3Poly Ⅰ : C RIPFADDcaspase 3TRIF会合TLR3 in vivoin vitro図3 TLR3を介するアポトーシスとその制御In vivoではRNAウイルス等を認識したTLR3によりTRIFの会合が生じ,caspase 3の会裂を伴うアポトーシスを伴う.In vitroではpoly I : Cによりアポトーシスが生じるがin vivoでは,FADD以下の活性化は起こっておらず,EGFによって誘導されるHO-2やHSP-27がTLR3誘導性アポトーシスを制御していると考えられる.

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