2373女性の動脈硬化性疾患発症予防のための管理指針 2018年度版
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動脈硬化性疾患の疫学1動脈硬化性疾患は加齢とともに増加する.欧米に比して日本での動脈硬化性疾患の発症率は低い.男性に比して女性の平均寿命は長く,動脈硬化性疾患の発症率が低い.女性の動脈硬化性疾患は閉経後に徐々に増加する.生活習慣の改善が健康寿命の延伸につながる. 戦後間もない1947年,日本人の平均寿命は男性50.06歳,女性53.96歳,と女性は閉経前後で亡くなっていた.生活環境,食生活の改善と医療進歩によって年々平均寿命は延長し,2017年の日本人の平均寿命は男性81.09歳,女性87.26歳と過去最高を更新している.どの時点でも男性が女性より短命である.世界的にみると,女性は香港に次いで2位,男性は香港,スイスに次いで3位である.日本人の寿命の延びには「がん」,「心疾患」,「脳血管疾患」の三大死因の死亡率低下が貢献していると,厚生労働省は分析している.平均寿命が延びている現代において健康寿命を延ばすために,若いときからの生活習慣の改善および禁煙指導を徹底していかなければならないことはわれわれ医療者の職務である. William Oslerの名言のひとつに“ひとは血管とともに老いる”という言葉がある.健康であっても動脈硬化は加齢にしたがい徐々に進んでいく.動脈硬化危険因子はその血管の老化現象を早める影響がある.冠動脈疾患1 動脈硬化性疾患の発症頻度を知るには,その地域での疾患登録が必要であり,わが国を含めて海外でもそのデータは必ずしも多くない.特に年齢別,男女別になるとなおさらである.図1は冠動脈疾患の一次予防ガイドライン(日本循環器学会)からの日本人のデータである1).年間の急性心筋梗塞発症頻度は10万人あたり,50歳で男性80人前後,女性は20人前後,60歳で男性150人,女性70人である.男女とも加齢にしたがい発症率は増加しているが,ほぼ10年強遅れて女性は男性に近い心筋梗塞発症者数となっている.図2は世界の都市における心筋梗塞の発症頻度のデータ(35~65歳)である2,3).男女比較すると海外でも女性のほうが男性より心筋梗塞の発症頻度は少ない.また,欧米でも地中海沿岸各都市は比較的少なく,次いで中国北京,そして日本の各都市の順になっている.わが国では,高齢者人口の増加に伴い,動脈硬化性疾患は後期高齢者層(80歳前後)に大きくシフトしている.しかしながら,遺伝的因子や食生活,わが国の環境因子に加えて,生活習慣の改善指導,健診の徹底による脂質,血圧,血糖管理の厳格な実施などを通して,わが国の動脈硬化性疾患の発症が諸外国に比して少ない.1

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