2375高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン  第3版
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 痛風は,欧米においては古くから知られている関節疾患であるが,わが国においては明治以降に初めて報告された疾患である.その基礎病態である高尿酸血症は,遺伝的背景に加えて環境要因が大きく発症に関与する生活習慣病と考えられており,ほかの生活習慣病と同様に,飽食の時代とともに患者数が増加している.その一方で,高尿酸血症・痛風は,急性関節炎を生じた患者は整形外科やリウマチ科を受診し,メタボリックシンドローム関連で高尿酸血症を指摘された患者は内科が担当し,尿路結石などを生じた患者は泌尿器科を受診するというように,患者の窓口となる診療科が多岐にわたっているのが特徴でもある.そのため診療科により,治療方針に違いがあることは容易に想像できることである.また,高尿酸血症や痛風に関しては俗説も多く,患者のみならず医師の誤解例も多いのが現状であり,一般医と専門医で診療内容が大きく異なることが指摘されている.これらのことから,国民が均質な医療を享受するためのよりどころの1つとしてガイドラインが必要であろうと考えられた. 日本痛風・核酸代謝学会では,エビデンスを網羅した『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第1版)』を2002年に発行し,痛風の診療を主体としたガイドラインを示した.第2版は2010年に発行され,無症候性高尿酸血症の取り扱いが示され,高尿酸血症は生活習慣病や臓器障害の危険因子である可能性とマーカーである可能性が示された.その後,現在まで,高尿酸血症は高血圧やメタボリックシンドローム等の生活習慣病,腎障害,脳・心血管イベントの予測または危険因子であるという報告が増加し,種々の介入試験がなされた.しかしながら,高尿酸血症がこれらの疾患の危険因子であるという報告と危険因子ではないという報告が混在し,日常臨床で無症候性高尿酸血症をどのように取り扱うかは現在でも意見の分かれるところである.また,医療従事者を含めて高尿酸血症に対する認知度はいまだ低く,適切な治療や予防対策がなされていない現実もある. 近年,欧州リウマチ学会ならびに米国リウマチ学会が痛風の診断と治療に関してのガイドラインの改訂を行い,高尿酸血症・痛風患者では腎機能の評価および心血管リスクの評価を勧めているが,無症候性高尿酸血症の段階で尿酸コントロールを痛風や腎障害および心血管イベントの予防の目的では行わないとしており,わが国のガイドラインとは異なる点がある.既存の薬物は高尿酸血症単独の診断名では使用できなかったが,フェブキソスタットやトピロキソスタットといった新規のキサンチン酸化還元酵素(XOR)阻害薬が開発され高尿酸血症単独の診断名で使用できる.これらの薬物は中等度の腎障害を有する高尿酸血症患者にも用量を変更せずに使用が可能であり,産生過剰型高尿酸血症のみならず排泄低下型高尿酸血症にも効果的であることが2012年の追補版にも記され,薬物選択に関しての病型分類の必要性が議論されている.これらの現状を踏まえ第2版の改訂が必要であると考えられた. さらに,ガイドライン作成法にも大きな変化がある.ガイドライン作成は,まず答えるべきクリニカルクエスチョン(CQ)の明確化に始まり,既存の文献を系統的に収集・選択・評価し,それを集約し,最終的に『推奨』を決定する.最近はGRADEシステムが注目され,“evidence-based consensus guideline”といわれ質の高いレベルのエビデンスが不足していたり,複数のエビデンスの示す結果が異なる場合,デルファイ法をはじめとする総意形成手法が用いられる.公益財団法人日本医療機能評価機構 EBM医療情報事業(Medical In-formation Network Distribution Service:Minds)では,これらのガイドライン作成状況を踏まえて『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』を示しており,本ガイドライン(第3版)の改訂はMindsマニュアル(ver. 2.0)を参考として作成するという方針とした. 本ガイドラインは高尿酸血症・痛風の診療上の重要度の高い医療行為(治療等)について患者と医療者の意思決定を支援するための最適と考えられる推奨を示し,患者と医療者の合意形成の基での医療が円滑に提供できることが期待される.本ガイドライン改訂の背景と目的11背景・目的・スコープおよび使用上の注意作成組織・作成方針第 章118

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