子宮内膜症は子宮内膜類似の組織が子宮の外に発生する疾患である.発生部位は多岐にわたり,全身のいずれの部位にでも発生しうるといっても過言ではない.EndometriosisとAdenomyosisという用語が初めて使用され,子宮内膜症と子宮腺筋症の概念が分かれたのが1925年であるが1)2),1920年のThomas S. Cullenの論文3)にすでに子宮内膜症が多様な部位に発生することが記されている.一方で,子宮内膜症は部位によって発生頻度や症状が大きく異なり,診断・治療を考える上で同一の疾患ではなく別々の疾患として捉えることが合理的である.Julie A. IringとPhilip B. Clementは病理学的に発生部位をcommon site,less common site,rare siteの3つに分類しているが4),これに対応する適切な用語が日本に存在しなかった.卵巣,子宮周囲の靭帯,ダグラス窩,骨盤腹膜は好発部位で,症状も月経痛などの疼痛と不妊と共通性があり1つのグループにまとめることができ,これ以外の子宮内膜症を別のグループとすることが妥当と考えられる.一時期,前者に対して別の部位にできるということで,異所性子宮内膜症という用語が自然発生的に使用されている時期があった.しかしながら,子宮内膜症そのものが異所性の子宮内膜であることから,異所性子宮内膜症は用語として不適当とみなされ新たに用語を決めることとなった.日本エンドメトリオーシス学会では2年間の討議ののち,2012年1月の長崎市での第33回学術集会で「稀少部位子宮内膜症」という用語を採択した.稀少部位子宮内膜症は子宮内膜症の中でも頻度が少なく,発症部位ごとに特徴のある症状を呈し,治療も異なる.なお,稀少部位子宮内膜症は包括的な用語なので,個別には臓器の名をつけて○○子宮内膜症のようによぶことが一般的である. 平成27(2015)年度のわが国での子宮内膜症の受療者数は約22万人であった5).一方,平成28(2016)年度の厚生労働省科学研究大須賀班による調査では,全国の施設で2006~2016年の間に経験された症例として,腸管子宮内膜症は672症例,膀胱子宮内膜症・尿管子宮内膜症は203例,胸腔子宮内膜症は495例,臍部子宮内膜症は110例の報告があり,総数1,480例であった6).以上はすべての稀少部位子宮内膜症ではないが,症例数の多いものはすべて含まれている.よって,稀少部位子宮内膜症の子宮内膜症全体に占める割合はおそらく0.5~数%程度までと考えられる.稀少部位子宮内膜症における一般の子宮内膜症の合併に関しては,かなりの頻度で併発が認められるが,稀少部位の臓器ごとに頻度に違いがある.疾患概念(含む,歴史)疫 学第1章総論総説稀少部位子宮内膜症総論
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