iii2015年の日本産科婦人科学会の「着床前診断」に関する見解の改定により,わが国の着床前診断は大きく進化した.最も大きな変化は,診療施設と解析施設の分離が可能となった点である.すなわち,診療施設では採卵,顕微授精,胚生検,という一連の不妊治療を行い,胚生検検体を専門の解析施設に送る.解析施設は結果を診療施設に伝え,診療施設は結果に基づいて胚移植を行う.いいかえると,以前は,クライエントは着床前診断の不妊治療も検査もできる特定の施設に遠路はるばる通院せねばならなかったが,このシステムではクライエントは居住地近くの大学病院などの産婦人科,もしくは不妊専門のクリニックで着床前診断を受けることが可能となった.この改定の意義は大きく,地元で受けることができる着床前診断はクライエントにとっては大変身近な選択肢となった.当初は,海外の検査施設に生検検体を送付された施設が多かったが,検査施設の精度管理が不明であったり,質問への対応が不十分であったり,コミュニケーションが取りにくかったりと種々のトラブルが生じた.さらには,日本人ゲノム情報の海外流出という得体の知れない不安感も増大するなか,私たちは日本国内での検査体制の充実化が重要と考え,診療施設と解析施設の共同研究組織としてJapan PGD Consortium(JAPCO)を立ち上げた.培養技術の進歩と網羅的遺伝子解析技術の導入もあいまって,着床前診断の精度も非常に高くなるなかで,それぞれの技術を得意とする診療施設と解析施設がタッグを組んでコラボレーションをするJAPCOは,理想的な着床前診断の診療体制を提供することが可能である.本書は,JAPCOの世話人の先生方に最新の着床前診断の診療体制を解説していただくように執筆を依頼した.本書が,自施設での着床前診断の診療体制の確立を目指す産婦人科医や胚培養士,臨床検査技師,認定遺伝カウンセラーなどの入門書として役立つことを願ってやまない. 2019年6月 藤田医科大学総合医科学研究所分子遺伝学研究部門 教授 JAPCO世話人代表 倉橋浩樹はじめに
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