2381網羅的手法による着床前診断のすべて
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2澤井英明はじめに着床前診断という用語は現在のpreimplantation genetic testing(PGT)の和訳であるから,本来は着床前遺伝学的検査とよぶべきであるが,わが国では歴史的経緯としてその導入当初から着床前診断とよばれ,様々な評価や批判を受けて現在に至っている.着床前診断とは体外受精・胚移植(in vitro fertilization and embryo transfer:IVF-ET)と顕微授精〔通常は卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection:ICSI)〕の技術により得られた卵子(極体を含む)または胚(卵割期胚~胚盤胞)を生検して得られた割球のDNAを分析し,HLAタイピングや染色体・遺伝子の変異の有無を検査することで,胎児のもつ遺伝情報を着床前に明らかにすることである1).そして検査の目的にかなった胚だけを子宮内に移植する.国際生殖補助医療モニタリング委員会(International Committee Monitoring Assisted Reproductive Technologies:ICMART)で示されている2017年の定義に従って記載すると検査の目的は以下に示すように大きく分けて3つある1).aPGT-A(preimplantation genetic testing for aneuploidy)従来の着床前スクリーニング(preimplantation genetic screening:PGS)に該当する.遺伝学的に明らかな変異を有さない不妊カップルのIVF-ETを行う際に,移植胚の全染色体の異数性(いわゆるモノソミーやトリソミーなどの数的異常)を調べる.子宮内に移植しても流産する染色体異数性を有する胚を除外して移植し,流産率の低下と妊娠継続率の向上を目的とする.従来のPGSという名称については,「スクリーニング」という用語は本来は「確定診断」とペアになる用語であり,これだけで完結している本法はスクリーニングではないという理由で変更になったとされている2).またわが国ではこのスクリーニングという用語がときに全ゲノムの遺伝情報を網羅的に調べるような印象をもたれたり,出生前診断でしばしば指摘される全員を対象としたマススクリーニングと誤解される可能性も指摘されてきた3).□着床前診断の分類:目的の異なる3つ(PGT-A,-M,-SR)に分類される.□海外での着床前診断の実用化:1990年頃から報告され,2000年前後に臨床実施が拡大した.□日本での導入から現在まで:PGT-M(単一遺伝子疾患を対象)は1998年に日本産科婦人科学会から見解が示され,賛同と批判のある中で臨床研究として開始される.2006年にはPGT-SR(転座保因者の習慣流産を対象)が見解に追加された.2018年に臨床研究を終了し,医療行為と位置づけられた.□日本での今後:2015年からPGT-Aが臨床研究として開始される.2019年からは実施施設が拡大されて進行中である.Point1.わが国の臨床研究としての着床前診断の歩みPart.1

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