神経系からみた概説 アミノ酸は生体の蛋白質の生合成に関与するとともに,エネルギー産生,神経伝達,カテコラミン産生,エピジェネティクス,一酸化窒素(NO)産生などに重要な役割をもつ. アミノ酸代謝異常症は,障害されたアミノ酸代謝経路の代謝されない物質の毒性や,産生されない物質の生物活性などにより発症する. アミノ酸代謝異常症の症状は,発達遅滞,成長障害,意識障害,哺乳不良,嘔吐,筋緊張の異常,失調,不随意運動,けいれん,臓器障害など,非特異的である.新生児期に意識障害,けいれんなどで発症するものや,脳症症状を欠き,慢性的に出現するものまで様々である. 下記に代表的な疾患の病態を示す(尿素サイクル異常症のシトルリン血症I型,アルギニノコハク酸尿症(p.58)は別項参照).1フェニルケトン尿症 過剰なフェニルアラニンが神経毒性を有し,中枢神経の発達期だけでなく,成人期においても中枢神経機能に影響を及ぼす.2非ケトーシス型高グリシン血症(グリシン脳症) 欠損するグリシン開裂酵素の基質であるグリシンが体内に過剰に蓄積し,新生児型では,代謝性脳症が引き起こされる.脳梁欠損,小脳低形成など脳形成異常を高率に合併する. アミノ酸代謝異常症の治療は,①蓄積する物質の前駆体の蓄積に対する治療(食事療法,血液浄化,阻害薬,別経路代謝の活性化),②産生されない物質の補充,③欠損する酵素活性の改善(補因子の補充,臓器移植,細胞移植,酵素補充療法,遺伝子治療)に大別される.3CBS欠損症(ホモシスチン尿症I型) シスタチオニンβ合成酵素(cystathionine-β-synthase:CBS)欠損症は,メチオニンの代謝産物であるホモシステインが蓄積し,尿中にホモシスチンが大量に排泄される.過剰なホモシステインがチオール基を介して生体内の種々の蛋白質と結合する過程で生成されるスーパーオキサイドにより,血管内皮細胞障害をきたすと考えられる.知的障害,てんかん,骨粗鬆症,Marfan症候群様症状,水晶体亜脱臼,血栓症などを発症する.疑うポイント①急性の意識障害や失調,退行,また,それらを欠く神経症状の進行,多臓器障害を認める症例では,アミノ酸代謝異常症を鑑別する必要がある.②体内の蛋白質が分解され,アミノ酸が放出さ1アミノ酸代謝異常症・アミノ酸代謝異常症では,しばしば毒性をもつ代謝されない物質の蓄積や,産生されない物質の欠乏により,脳,肝臓,腎臓などの臓器障害が引き起こされる.出生早期に急激に発症する病型と,乳児期またはそれ以降に発症する病型とがある.・新生児マススクリーニングでフェニルケトン尿症・類縁疾患,メープルシロップ尿症,ホモシスチン尿症が発見され,早期に治療が開始される.その他の疾患でも,治療可能な疾患が多いため,確実に診断し治療を開始する必要がある.・症状は意識障害,けいれんなど非特異的であるため,それらの症状を示す症例では,先天代謝異常症をつねに念頭におく必要がある.アミノ酸代謝異常症の診断には血液,髄液,尿中アミノ酸分析,尿中有機酸分析が有用である.確定診断には酵素解析や遺伝子解析を行う.・食事療法,毒性物質の生成阻害,別代謝経路の活性化の作用を有する薬剤による治療が行われる.POINT38
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