2382治療可能な遺伝性神経疾患 診断・治療の手引き
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疾患概要1定義 チアミンピロホスホキナーゼ1(thiamin pyro-phosphokinase 1:TPK1)欠損症はTPK1遺伝子異常を原因とするチアミン代謝異常症候群の1つで,チアミン代謝異常症候群5型ともよばれる.2011年にMayrらによりはじめて報告され1),現在までに10例以上の報告がある2~4). TPK1欠損症では,小児期早期に,感染などにともなって急性脳症のエピソード(意識障害,失調,ジストニアなどLeigh脳症に類似した症状)を呈する.脳症エピソードは反復し,長期的には発達遅滞,筋緊張の異常(低緊張,ジストニア,痙性),失調,歩行障害,けいれん,構音障害などの神経症状が階段状に進行する.重度障害例や幼児期死亡例も報告されている.運動機能に比して知能は保たれる例が多いが,軽度の知的障害をともなう例もある.2病態 TPK1は,チアミンをチアミンピロリン酸(thiamine pyrophosphate:TPP)に変換する反応を触媒する.TPPは細胞質およびミトコンドリア内で,ピルビン酸脱水素酵素複合体やα-ケトグルタル酸脱水素酵素など,エネルギー産生のために重要な複数の酵素の補酵素として働く(図1).TPK1欠損症ではTPPが不足するために,これらの酵素機能が低下し,解糖系やミトコンドリアでのエネルギー産生が障害されて様々な症状をきたすと考えられる.感染時などエネルギー需要が亢進した状態では,さらに症状が顕在化しやすいと考えられる.3疾患と遺伝子・OMIM:#614458・責任遺伝子:TPK1(7q35)・遺伝形式:AR治療1チアミンの経口投与エビデンスレベル5 チアミンの経口投与が臨床的に有効であったとする複数の症例報告があり1~4),TPK1欠損症はチアミン反応性の疾患と考えられている.急性脳症エピソードの再発を抑制したり,神経症状が改善したなどの効果が報告されている.TPK1の基質となるチアミンを大量に投与することで,残存するTPK1活性を利用してTPPが上昇するという機序が推測されている. チアミン投与量は経口投与で100~500mg/dayと報告によって幅があるが1~4),20~30mg/kg/dayとビタミンB1欠乏症などの治療に比べると高用量の投与が必要と考えられている3,5).またチアミン投与でなんらかの効果が得られた場合は,病態を考慮して終生の投与継続が望ましいとされる. これまでに報告されている症例が少なく,長期的効果も不明であるが,早期に治療開始した例で特に効果が高く,症状進行例では効果が乏しい傾向があり,早期診断・早期治療が重要である.・TPK1欠損症は,TPK1遺伝子異常にともなうチアミンピロリン酸の欠乏により,小児期に急性脳症のエピソードを反復し,長期的には発達遅滞,筋緊張の異常(低緊張,ジストニア,痙性),失調などの神経症状を呈する疾患である.・チアミン投与により神経症状が安定化または改善した症例が報告されている.POINT1A.ミトコンドリア関連疾患チアミン(ビタミンB1)代謝異常症候群(1)チアミンピロホスホキナーゼ1欠損症72

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