533.甲状腺疾患の分類と重症度甲状腺の臨床◆総論Ⅱ作用が正常に発揮されているかどうかにより,広義の甲状腺機能亢進症(甲状腺中毒症),甲状腺機能正常,甲状腺機能低下症に分類される.甲状腺機能亢進症は狭義では甲状腺組織が刺激型の抗TSH受容体抗体やTSHなど何らかの原因で刺激(活性化)されるか刺激性甲状腺ホルモンが過剰に産生されている状態を指す.したがって,ヨウ素の取り込み,サイログロブリンのヨウ素の有機化,甲状腺ホルモンの産生過剰,血中甲状腺ホルモンの高値,甲状腺ホルモンの生理作用の亢進がみられる.甲状腺機能亢進症を便宜的に甲状腺中毒症と同義で用いられることがあるが,前述のような甲状腺の機能亢進がみられない場合は甲状腺中毒症と定義される.破壊性甲状腺炎による甲状腺からの甲状腺ホルモンの漏出や外因性に甲状腺ホルモンが過剰に投与された場合など血中の甲状腺ホルモン値が高値で,甲状腺ホルモンの生理作用が過剰にみられる状態を甲状腺中毒症とする.狭義の甲状腺機能亢進症もこの中に含まれる. 対照的に甲状腺機能低下症は何らかの原因により,甲状腺ホルモンの産生は低下し,血中甲状腺ホルモンの低下,甲状腺ホルモンの生理作用の低下がみられる.甲状腺機能には問題がなく,甲状腺ホルモン作用の低下をきたす場合もあるが,この場合には甲状腺ホルモン不応症あるいは薬剤による甲状腺ホルモン作用の低下が相当する.しかし,この場合には甲状腺以外の部位に甲状腺ホルモンの作用不足の原因があるため甲状腺機能低下症とは明らかに区別される. 頻度の高い甲状腺疾患を形態と機能から分類すると,びまん性か結節性か,甲状腺ホルモンが高値,正常,低下に分類される(表1).びまん性甲表2 成因による分類 1 . ヨウ素の不足・過剰 2 . 自己免疫性 Basedow病,慢性甲状腺炎(橋本病),特発性粘液水腫 3 . 炎症性 急性化膿性甲状腺炎,亜急性甲状腺炎,無痛性甲状腺炎,IgG4関連甲状腺炎 4 . 腫瘍性(良性・悪性) 腺腫,乳頭癌,濾胞癌,髄様癌,未分化癌 悪性リンパ腫,転移性 5 . 腫瘍性病変 腺腫様甲状腺腫,中毒性多結節性甲状腺腫(toxic multi‒nodular goiter:TMNG) 6 . 系統的疾患に伴う病変 アミロイドーシス,サルコイドーシス 7 . 甲状腺の発生異常 無形成,低形成,異所性,遺伝子異常(TTF1,TTF2,PAX8) 8 . 甲状腺ホルモンの産生障害 a . 先天性甲状腺機能低下症 甲状腺ホルモンの合成障害:甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO),サイログロブリン,Na/Iシンポーター(NIS),ペンドリン(PDS),甲状腺酸化酵素(dual oxidase 2:DUOX2) 酵素欠損:ヨードリサイクリング(dehalogenase)欠損 b . 中枢性甲状腺機能低下症 下垂体性,視床下部性 c . 母体からの影響 ヨウ素過剰,抗甲状腺薬,TRAb,母体からの甲状腺中毒症など 9 . 受容体異常症 甲状腺ホルモン受容体異常症(Refetoff症候群),甲状腺ホルモン受容体αの異常 非自己免疫性甲状腺機能亢進症(TSH受容体異常症) 10 . 甲状腺ホルモン感受性低下症候群 Monocarboxylate transporter 8(MCT8)異常 脱ヨウ素酵素(DIO)異常 11 . 治療後(続発性) a . 手術後 b . 放射線治療後 c . 薬剤性(ヨウ素,抗甲状腺薬,リチウム,アミオダロン,インターフェロン,リバビリン,イマチニブ,ニボルマブなど)〔伊藤光泰:甲状腺疾患の分類と頻度.Modern Physician 2011;31:414‒417.より一部改変〕
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