2388甲状腺専門医ガイドブック 改訂第2版
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54Ⅱ 甲状腺の臨床/総論状腺腫があり甲状腺ホルモンが高値(中毒症)にはBasedow病,無痛性甲状腺炎,TSH産生腫瘍(不適切TSH分泌症候群〈SITSH〉を呈する),非自己免疫性甲状腺機能亢進症(抗TSH受容体抗体(TRAb)が陰性)が代表的な疾患である.びまん性甲状腺腫があり甲状腺ホルモン値が正常なものには,橋本病,腺腫様甲状腺腫,単純性甲状腺腫がある.びまん性甲状腺腫があり,甲状腺機能が正常な時は橋本病あるいは単純性甲状腺腫を考えやすいが,超音波検査では腺腫様甲状腺腫や甲状腺囊胞がみつかることがある.びまん性甲状腺腫で甲状腺ホルモンが低下しているのは,橋本病,甲状腺ホルモン合成障害がある.次に,結節性甲状腺腫があり,甲状腺ホルモン値が高値なものには,Plummer病,中毒性多結節性甲状腺腫,移動性亜急性甲状腺炎(中毒症期)がある.甲状腺機能と血中ホルモン値が正常なのは,良性および悪性腫瘍,腺腫様甲状腺腫,囊胞があげられる. 甲状腺疾患の成因として発生学的異常,遺伝子異常,自己免疫,腫瘍,薬剤などの外因的障害などがある(表2).甲状腺の形成の障害,あるいは甲状腺機能に重要な働きをする酵素などの遺伝子異常は甲状腺腫や甲状腺機能低下症を生じる.通常3,000~4,000の分娩に1回の頻度で先天性甲状腺機能低下症が生じるとされ,新生児マススクリーニングにより診断されて治療されている.この中には甲状腺ホルモンの生成にかかわる遺伝子異常ばかりでなく,発生学的異常,異所性甲状腺腫,母体からの影響なども含まれる.甲状腺ホルモンの生成にかかわるNa/Iシンポーター(NIS),サイログロブリン,ペンドリン,甲状腺ペルオキシダーゼ,脱ヨウ素酵素などの遺伝子異常が報告されている.最近臨床的に使用頻度が増加しているアミオダロンやニボルマブは甲状腺機能異常の頻度が高く要注意である. 自己免疫疾患を複数生じてくるIPEX症候群(immune dysregulation,polyendocrinopathy,enter-opathy,X‒linked syndrome)も甲状腺機能低下症を併発することがあるが,病因は調節性T細胞(Treg)に発現しているfoxp3(forkhead box3)の遺伝子異常が同定されている.免疫応答に関与するautoimmune regulator(AIRE)遺伝子の異常による自己免疫性内分泌腺症候群(APS)1型には甲状腺機能異常症がみられることは少ない.甲状腺疾患の病因として自己免疫の関与は大きく,中でも橋本病とBasedow病は頻度の高い疾患であり,さらに特発性粘液水腫がある.橋本病は甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO),サイログロブリン(Tg)特異的なHLA class 1拘束性の傷害性T細胞がみられ,自己抗体として抗Tg抗体や抗TPO抗体がみられる.Basedow病では刺激型の抗TSH受容体抗体がみられ,萎縮性の甲状腺機能低下症の一部では阻害型の抗TSH受容体抗体がみられる. 甲状腺腫瘍の原因は不明であるが,甲状腺癌の一部には遺伝子変異がみられ,特にret/PTC遺伝子とBraf遺伝子,ras遺伝子の変異が多い.家族性大腸ポリポーシスの家系で乳頭癌がみられる時はAPC遺伝子の異常がみられる.濾胞癌ではPax8遺伝子とPPARγ遺伝子の再配列が,未分化癌ではTP53遺伝子の変異がみられる.MEN2型ではRet遺伝子の変異が病因に関連している.放射線と甲状腺癌の関連性もよく知られている. 臨床的に同じような症状・所見であっても病因により治療法が異なることがあり,たとえば中毒性びまん性甲状腺腫を呈するBasedow病と無痛性甲状腺炎の鑑別にみられるように,病因による分類が最も重要である. 甲状腺機能異常症の臨床的な重症度は甲状腺ホルモンの多寡と関連するが,障害される臓器,特に中枢神経系あるいは心血管系の障害が特に重症度に影響する.血中甲状腺ホルモン値が必ずしも重症度と相関しない場合もあり,典型的な場合が甲状腺クリーゼや粘液水腫昏睡であり致死率が高い.甲状腺癌の場合には病理学的診断により予後が決定される.乳頭癌や濾胞癌の予後は比較的良好であり,未分化癌の予後は最も悪い.乳頭癌や成因による分類(表23))3.甲状腺疾患の重症度4.

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