I ポンペ病の概要3る.成人型は,青年期から成人後期までに発症する患者を示す.遅発型の発症年齢や臨床症状のスペクトラムは広く,60~70代で発症する症例もある.呼吸筋症状の評価が重要であり,四肢筋の筋力低下に比べ,呼吸筋症状が優位に出現することが多い.鼻声,Gowers徴候,翼状肩甲などを認める.臨床検査と診断 一般検査において,乳児型では,AST,ALT,血清クレアチンキナーゼ(CK)の上昇,脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の上昇がみられる.血清CK値は,多くの場合10,000 IU/L未満である.乳児型の胸部X線検査で心肥大,心電図ではP波の振幅の増大,PR間隔の短縮,QRSの高電位がみられる.心臓超音波検査で壁肥厚や駆出率の低下がみられる. 遅発型では血清CKの上昇がみられる.呼吸機能検査で肺活量と努力性肺活量(forced vital capacity;FVC)の低下がみられ,坐位での測定値に比し仰臥位での測定値がより低下する.骨格筋CTでは病期によりCT値の変化や筋萎縮がみられる.筋電図では筋原性変化を認め,ミオトニー放電がみられることがある. 筋病理検査は,筋線維内に酸ホスファターゼ染色陽性の空胞がみられ,空胞内にはperiodic acid-Schiff(PAS)染色陽性物質(グリコーゲン)が蓄積している.遅発型のなかには空胞を認めないことがあるが,酸ホスファターゼ活性陽性細胞質内封入体の存在が診断の糸口となる. 確定診断はGAAの酵素活性の低下の証明または病因となるGAA遺伝子変異の同定によりなされる.酵素活性測定にはリンパ球や生検筋,線維芽細胞を用いて行う.リンパ球の酵素活性はアカルボースを添加し測定する.GAA遺伝子の好発変異はないため,まず酵素診断を行う.遅発型の診断において,偽欠損症(pseudodeciency)について考慮する必要がある.筋病理所見などを総合して必要に応じ,偽欠損症アレル(p. G576S)の検索を行う. 乳児型の鑑別疾患としてWerdnig-Hoffmann(W-H)病,その他の糖原病,先天性ミオパチー,ミトコンドリア病などがある.W-H病では血清CK値は正常である.遅発型では肢帯型筋ジストロフィーやその他の筋疾患との鑑別が必要である.治療と予後 欠損酵素の遺伝子組換え製剤(アルグルコシダーゼアルファ)による酵素補充療法(enzyme replacement therapy;ERT)を行う.2週間に1回,20 mg/kgの点滴静注を行う. 骨格筋の破壊が進行する前に早期に治療を開始することが治療成績を向上させると考えられる5).加えて,イムノブロットで抗GAA抗体と反応するタンパク質すなわち,交差反応性免疫物質(cross-reactive immunologic material;CRIM)の有無がERTの効果に関与する.CRIM陰性の症例は乳児型の一部にみられるが,
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