2400子どもの予防接種
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68 破傷風は,破傷風菌Clostridium tetaniが産生する外毒素によって引き起こされ,しばしば致命的となるが,ワクチンで予防できる疾患である1~3).全身の硬直と骨格筋の筋れん縮(スパスム)が破傷風の特徴で,通常,顎と首から始まり,全身に広がる.顎の症状は日本語で開口障害,牙関緊急,咬痙,英語でlockjawやtrismusの名でよく知られる. 破傷風菌は芽胞の形で土壌中に広く常在し,家畜やペットの腸管,糞便中にも存在する.破傷風は世界的にみられるが,有機物の豊富な土壌があり,暑く湿気の多い気候の人口密集地域で発生しやすい. 破傷風は日本において1950年には患者数1,915人,死亡者数1,558人と報告され,死亡者の過半数は15歳未満の小児であった.1952年に破傷風トキソイドワクチンが導入され,さらに1968年には予防接種法による3種混合ワクチンの定期予防接種が開始され,以後,破傷風の患者・死亡者数は減少した.破傷風は感染症法の5類感染症全数把握疾患に位置づけられており,1999~2008年の年間患者報告数は100人前後,患者の大半は定期接種が開始(1968年から接種開始)される以前に出生した中高齢者であった4, 5).わが国における近年の報告患者数は年間120人程度である6).欧米での頻度は年間人口10万人あたり0.01人で,小児から高齢者まで年齢層に大きな偏りはない. 新生児破傷風は先進国では非常にまれだが,一部の途上国ではいまだ一般的である7).1980年代後半より93%減少しているものの2010年に世界で58,000人の新生児が破傷風で死亡したと世界保健機関(WHO)は推定している.1)感染経路 感染はおもに汚染された創傷によるもので,創傷部位から体内に侵入した芽胞が感染部位で発芽・増殖して破傷風毒素を産生し,それにより発症する.破傷風は手術,熱傷,穿刺創,挫滅創,耳や歯の感染症,動物の咬傷,中絶,出産などのさまざまな状況に続いて生じうる.近年では,重度の創傷は適切に管理されるため,むしろ軽い創傷の患者の割合が高くなっている.ヒトからヒトへ伝染することはない.2)破傷風毒素 破傷風菌は偏性嫌気性のグラム染色陽性の桿菌で太鼓ばち形の外観を呈する芽胞をもつ.栄養型の菌は熱に弱く,酸素の存在下では生存できない.対照的に,芽胞は熱や酸素,消毒薬を含む化学物質にも耐性がある.破傷風菌は2つの外毒素,テタノリシン(tetanolysin)およびテタノスパスミン(tetanospasmin)を産生する.テタノリシンの機能は十分にはわかっていない.テタノスパスミンは破傷風の症状を引き起こす神経毒で,最も強力な毒素の1つとしても知られる(推定最少ヒト致死量2.5 ng/kg体重).3)毒素による発症メカニズム 破傷風菌の芽胞が体内の嫌気的な状態で発芽増殖した結果,破傷風毒素が産生される.産生された毒素は,血液とリンパ管を介して播種され,運動神経終板,脊髄および脳,交感神経な1.疫 学疫学[p. 73]2.病 態破傷風6第Ⅱ部 各 論

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