147B 心疾患高血圧と心疾患1 心臓は高血圧の重要な標的臓器の1つである1).収縮期および拡張期の圧負荷増大は心肥大・心筋間質の線維化などの心筋リモデリングや冠動脈内皮障害がきたす.一方,高血圧は脂質異常症,糖尿病,喫煙などとともに冠動脈硬化の危険因子である.心筋リモデリングや冠動脈硬化,血管硬化が進展すると,冠動脈疾患,心不全,不整脈,突然死に至る(図1).したがって,心血管死亡および心血管事故発症を減少させるためには十分な降圧に加えて,心機能やその他の合併心疾患に応じて最適な降圧薬を選択することが重要である(表1,2).β遮断薬は,積極的適応のない(合併症のない)高血圧に対する第一選択薬としては推奨されないが,頻脈や心不全,狭心症,心不全,大動脈疾患など積極的適応がある心血管疾患に対しては,心血管事故を抑制し生命予後を改善する豊富なエビデンスを有する主要降圧薬として積極的に使用する(表2).VI高血圧性合併症の特徴と治療B心疾患Abstract・心臓は高血圧の重要な標的臓器である.・ 高血圧に伴う心肥大を主要降圧薬による持続的かつ十分な降圧により退縮させると,心血管事故の発症率を減少させ予後を改善できる.特にレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬(ACE阻害薬とARB)や長時間作用型Ca拮抗薬は心肥大退縮効果に優れている.・安定冠動脈疾患では,130⊘80 mmHg未満を降圧目標とする.・ 器質的冠動脈狭窄を有する狭心症に対しては,内因性交感神経刺激作用のないβ遮断薬と長時間作用型Ca拮抗薬が適応となる.冠攣縮性狭心症にはCa拮抗薬が適応である.・ 心筋梗塞後の患者ではβ遮断薬,RA系阻害薬,ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬が死亡率を減少させ予後を改善する.・ 左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)における死亡率を減少させ予後を改善する標準的薬物療法はRA系阻害薬+β遮断薬+利尿薬の併用療法である.標準的薬物療法へのMR拮抗薬追加は予後をさらに改善する.・ RA系阻害薬やβ遮断薬の導入にあたっては,心不全の悪化・低血圧・徐脈(β遮断薬)・腎機能低下などに注意しながら,少量から緩徐に注意深く漸増する.・ HFrEFを合併した高血圧において,適正な利尿薬併用にもかかわらず,RA系阻害薬・β遮断薬・MR拮抗薬を最大忍容量まで増量しても降圧が不十分な場合には長時間作用型Ca拮抗薬を追加する.・左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)では,収縮期血圧130 mmHg未満を目標に降圧する.・ HFpEFを合併した高血圧では,利尿薬を中心に病態に応じた降圧薬治療を行う.・ 高血圧を伴う急性心不全・肺水腫や高血圧を伴う急性冠症候群においては,早急な原疾患の診断・治療とともに,高血圧緊急症として,病態に応じて硝酸薬,ニトロプルシド,カルペリチド,Ca拮抗薬の静脈内持続投与により血圧コントロールを図る.・ 高血圧は心房細動発症の主要リスクであり,心房細動の発症抑制には収縮期血圧130 mmHg未満の厳格な降圧が有効である.・RA系阻害薬は,左室肥大や心不全を合併する高血圧における心房細動新規発症抑制には有効である.・ 心房細動患者では,適切な抗凝固療法や心拍数コントロールとともに,収縮期血圧130 mmHg未満を目指した降圧が望ましい.
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