150VI 高血圧性合併症の特徴と治療心筋梗塞と狭心症をそれぞれ10%減少させた8).さらに140/90 mmHg未満の高血圧非合併冠動脈疾患への降圧薬の効果を検討したThompsonらのメタ解析では,収縮期血圧130 mmHg未満への降圧により脳卒中が23%,心筋梗塞が20%,心不全が29%,心血管死が17%,総死亡が13%減少した9).さらに,Okamotoらのメタ解析により,冠動脈疾患における拡張期血圧80 mmHg未満への降圧は,冠動脈再建を11%抑制し,有意ではないが総死亡,心血管死亡,心筋梗塞,狭心症,脳卒中を約10%減少することが示された(p.172 column 7参照)10).さらに,抗血小板薬治療中の冠動脈疾患では収縮期血圧130 mmHg以上で頭蓋内出血リスクが増加し,抗血小板薬2剤併用療法でさらにリスクが増大する11).これらをふまえて,JSH2019では130/80 mmHg以上で降圧薬治療を開始し,降圧目標は130/80 mmHg未満とされた1). 冠動脈疾患において,冠灌流量を規定する拡張期血圧が70 mmHgより低下すると心筋虚血を引き起こし,心事故が増加する可能性(J型カーブ現象)への危惧がある(p.172 column 7参照).しかしながら,冠動脈バイパス(coronary aortic bypass graft:CABG)または経皮的冠動脈形成術(percuta-neous coronary intervention:PCI)による冠血行再建術により拡張期血圧低値の心事故増加は抑制され12,13),冠血行再建術後では,75歳以上の高齢者も含めて,高度な動脈硬化,慢性腎臓病(CKD),心機能低下が心血管死亡の独立した危険因子であり,拡張期血圧70 mmHg未満は有意な因子ではなかった14,15).したがって,拡張期血圧低値は心事故の直接の原因というよりも,心事故高リスクのサロゲートマーカーと考えられる.拡張期血圧70 mmHg未満の場合,心筋虚血,高度動脈硬化,心不全,CKDや消耗性全身疾患などのスクリーニングや管理とともに,脳虚血症状,腎機能障害,狭心症,心電図異常が出現しないことを確認しながら,収縮期血圧130 mmHg未満を目指す1).安定冠動脈疾患(1)狭心症 狭心症の原因には冠動脈の高度狭窄と冠攣縮がある.本邦では冠攣縮が関与する狭心症の頻度が高く,両者がともに関与している場合も少なくない.器質的冠動脈狭窄による労作性狭心症には,β遮断薬と長時間作用型Ca拮抗薬が第一選択薬となる(表1,2)1,5,6).冠攣縮による安静型狭心症では,高血圧の有無にかかわらず長時間作用型Ca拮抗薬を用いる.安静時兼労作性狭心症など機序が不明な場合には,β遮断薬の単独投与は冠攣縮を増悪する可能性があるので,Ca拮抗薬あるいはCa拮抗薬とβ1選択性遮断薬の併用を選択する.降圧が不十分な場合にはCa拮抗薬とRA系阻害薬を併用する. 短時間作用型Ca拮抗薬は,急激な降圧や反射性頻脈により心筋虚血が誘発される危険性があるため禁忌である.β遮断薬は主に徐脈作用によって抗狭心症作用をきたすので,内因性交感神経刺激作用のない薬物を選択する. 高齢者や糖尿病・CKD合併例では冠動脈疾患合併頻度が高いうえに,自覚症状が伴わない無痛性心筋虚血に注意する.このような高リスク症例では,循環器専門医と連携し,定期的な運動負荷検査を含めた管理が勧められる.必要に応じて,冠動脈CT検査,冠動脈造影を施行し,冠血行再建術の適応を検討する.(2)陳旧性心筋梗塞 心筋梗塞後には,必ずしも降圧を目的とせず,心事故抑制と生命予後改善のためにβ遮断薬やRA系阻害薬を用いる1,5,6,16).左室駆出率低下(40%未満)を伴う心筋梗塞,発症3年以内の心筋梗塞・急性冠症候群に対しては,心筋梗塞再発や突然死を予防するエビデンスを有するβ遮断薬(カルベジロール,ビソプロロール)を投与する(表1,2).ただし,わが国では心筋梗塞の発症への冠攣縮の関与が少なくないことには注意が必要である. RA系阻害薬は左室駆出率が低下した心筋梗塞における心筋リモデリング(左室拡張,心肥大,間質線維化)を抑制し,心不全や突然死などの心事故を減少し生命予後を改善する.特にACE阻害薬はAIRE,SAVE,TRACEなどから心筋梗塞後の心血管合併症を減少させ生命予後を改善させることが確立されている.一方,OPTIMALLやVAL-IANTからARBの心筋梗塞後の心血管事故予防作用はACE阻害薬より優れていることは証明されなかった.これらをふまえて国内外の心筋梗塞二a
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