180•3.開胸手術の麻酔通常の両肺換気によって麻酔管理を行い,術者が術側肺を圧排しながら手術を行う この方法は麻酔科医にとっては最も簡便な方法であり,気管内吸引も容易であるが,以下の点に注意する.1)術側肺からの分泌物や出血が換気側肺へ流れ込みやすい.2)頻回に肺の圧排,拡張を繰り返すことがあり,そのつど換気条件を変える必要がある.3)手術操作によって,気管チューブ先端が気管内壁にあたる,あるいはチューブ位置が変わり気管支挿管になるといったことが原因で,換気不全となる場合がある.●2 分離肺換気中の麻酔管理1)開胸になる直前から吸入酸素濃度を上げ,術側肺の換気を止める.以後の換気は気道内圧や換気状態に注意しつつ,1回換気量7~10mL/kgで適宜呼吸回数を調節する.PaCO2を40mmHg前後に保つことができればよいが,やむをえない場合には60mmHg前後の高二酸化炭素血症を容認する場合もある.こうした管理は成人と基本的に異なるものではない.2)分離肺換気,あるいは術側肺圧排に伴う気道内圧上昇,換気不全などの問題が生じたら,必要に応じて一時的に両肺換気を行う.3)手術操作によって心臓も圧迫されることがあり(特に左開胸のとき),不整脈や低血圧などの循環動態の変動も起こりうる.必要ならば圧迫を解除してもらう.2胸腔鏡下手術1)胸腔鏡下手術は腫瘍生検,摘出,肺葉切除,肺囊胞切除など多くの術式が適応となる.また漏斗胸手術(Nuss法)の胸腔内観察にも用いられる.胸腔鏡の最小径は2mmを下回るものがあり,乳児や新生児に対しても使用が可能となっており,食道閉鎖症や横隔膜ヘルニアに対する手術でも使用されることがある.2)胸腔鏡を挿入したときの視野を十分得られるよう,分離肺換気を行うことが好ましいが,分離肺換気に伴う問題(低酸素血症,高二酸化炭素血症,高気道内圧,不整脈,低血圧など)に注意して麻酔管理を行う.3)分離肺換気ができない症例では胸腔内に二酸化炭素を送気したり,鉤で圧迫したりして手術を行うことも可能である.二酸化炭素を送気する場合には,高二酸化炭素血症や,胸腔内圧上昇による循環虚脱に注意する.鉤で圧迫する場合は鉤による肺の損傷が起こる可能性がある.4)思わぬ出血や心血管系の圧迫には速やかに対応する必要がある.3開胸手術の術後鎮痛 方法として以下のようなものがあり,手術侵襲に応じて使い分けや併用で鎮痛を図る.●1 フェンタニル持続静注もしくは経静脈的自己調節鎮痛(intravenous patient-controlled analgesia;IV-PCA):施行が容易でよく行われる方法.区域麻酔が困難なときにも用いられる.(→「II-8-4.鎮痛薬の使用法」p.86参照)●2 胸部硬膜外麻酔:小児の硬膜外麻酔に習熟していることが必要である.(→「II-9-3.胸部・腰部硬膜外麻酔」p.93参照)●3 胸部傍脊椎ブロック:神経ブロックに習熟していることが必要である.(→「II-9-4-6.胸部傍脊椎ブロック」p.98,「同表4.神経ブロックに用いる薬液量の例」p.96参照)●4 術者による肋間神経ブロック,傍脊椎ブロックもしくは胸腔鏡ポート挿入部の浸潤麻酔:術者に依頼する必要がある.
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