16Ⅰ 総論 イオンチャネルとは(神経)細胞膜に存在する蛋白で特定のイオンを選択的に透過する.また,細胞膜内外の電位差(膜電位)と濃度勾配にしたがって受動的に通過するイオン流は細胞の電気活動の源になる. 一方,細胞膜にはトランスポーターまたポンプとよばれる蛋白も存在する.これらは,一般的にエネルギーを必要とし,イオンや分子が能動的に輸送される点でチャネルとは区別される. イオンチャネルにはイオンが通過する穴(ポア)があり,多くは通過するイオンの種類が決まっている.ポアが膜電位の変化で開くタイプ(電位依存性チャネル)とGABAやアセチルコリンなどの化学物質で開くもの(リガンド依存性チャネル)がある.イオンの流れは電流を生み,細胞の電気活動を維持している. 神経や筋肉細胞では,Na+やCa2+などの陽イオンが細胞外から内へ流れると細胞は脱分極(興奮)する.逆に,細胞内のK+などの陽イオンの細胞外への流出により細胞は過分極(静止)へと向かう.同様にCl-などの陰イオンが細胞外から内へ流入すると膜電位は過分極(静止)へと向かう. チャネルの異常により起こる疾患をチャネロパシー(チャネル病)と総称する.チャネルは急速な生体機能変化を司る電気的活動を担っている.このため,その異常は不整脈,てんかんなど,突発・発作的な生体電位の異常による疾患をきたすことは想像に難くない.そればかりでなく,チャネル異常により,難聴や囊胞性線維症など慢性的な疾患なども含め,実に多彩な症状が,様々な臓器で起こることが知られるようになり,注目されている. 広義のチャネロパシーには,Na+チャネル毒であるフグ毒中毒や神経筋接合部のアセチルコリン受容体に対する自己免疫疾患である重症筋無力症など後天的疾患も含まれる.しかしながら通常は,チャネロパシーは遺伝子異常によるチャネルの先天的疾患,すなわち狭義のチャネロパシーを意味することが多い1). 分子生物学の発展とともに,てんかんにおいても中枢神経系のチャネルをコードする遺伝子異常が報告されるようになった1)(表1).すなわちこういったてんかんはチャネロパシーまたはチャネレプシーといえる. チャネロパシーとしてのてんかんの多くは希少な1イオンチャネルとは2チャネロパシーとは3チャネロパシーとしてのてんかん(表1)第2章 てんかんの病因・病態生理①チャネロパシーとしてのてんかん責任遺伝子1. チャネルを流れるイオンが電流・電位を生む.2. チャネルの異常による疾患をチャネロパシーとよぶ.3. 一部のてんかんはチャネロパシーである.4. 脳に発現するイオンチャネルなどの異常がてんかんに関係する.5. Dravet症候群はNa+チャネルの異常が主因である.6. Dravet症候群は遺伝学的診断が期待できる.ポイント2.てんかんの責任遺伝子と遺伝子診断
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