2419子どもの精神保健テキスト 改訂第2版
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2 乳幼児期の精神保健  5Ⅰ章総論-子どもの精神発達1.乳幼児期の発達に関する諸理論1) 発達段階:エリクソン(Erik Homburger Erikson) 発達課題(developmental task)とは,人間が健全で幸福な発達を遂げるために各発達段階で達成しておかなければならない課題のことである.エリクソンは,人間のライフサイクル(生活周期)の観点から,自我の発達段階を8段階に区分し,それぞれの段階に,心理的課題や導かれる要素を定義した(Ⅰ章 「3学童期の精神保健」 p.10 表1を参照). この理論は,ライフサイクルを通して乳幼児期の発達課題として基本的な信頼関係を明記するなど,小児の臨床領域にも大きな波及効果をもたらしている.次の発達段階に移行するためにそれぞれの発達段階で習得しておくべき課題として検討されてきた.2)愛着(アタッチメント) ボルビー(John Bowlby)が提唱した心理学概念で,ある人間と他の特定の人間との間に形成される愛情による絆のことで,特に乳幼児とその母親との情愛的結びつきを指す.ボルビーは,乳児は母親に対して生理的欲求だけでなく,後追いなど積極的に働きかける存在であり,愛着の発達は表1に示す4段階を経ると考えた. 乳児期に全面的に母親に依存していた状態から,徐々に母子分離が進行するが,乳児期の愛着による信頼感の確立が,この分離不安を克服するためには不可欠である.2~4歳頃に現れる第一反抗期は自我の芽生えの時期であり,自我が発達するうえでも母子分離の契機としても,重要な意味をもっている.3)思考発達段階説:ピアジェ(Jean Piaget) ピアジェは,知的発達とは主体内に新しい認知構造を構成していくことであると考えて,その構造を4段階に区分した(表2).この段階基準の特徴としては,どの個体においても出現順序が一定であること,後の段階は前の段階から派生・統合したものであること,段階を特徴づける全体的構造があること,などである.「感覚運動期」は愛着形成と「前操作期」は,言語,微乳幼児期の精神保健2†: 養育者のこと.自立歩行が可能になった子どもが,時折養育者のところに戻ってきて,皮膚感覚で安全を確かめ,再び探索行動を起こすことを保証する人のこと.Ⅰ章 総論-子どもの精神発達ボルビーの愛着の発達4段階第1段階誕生~12週の前愛着段階.特定の人(母親)と他の人と区別はできないが,人を目で追う,人の顔を見ると微笑む,泣き止むなど,人間指向の行動がみられる第2段階12週~6か月の愛着形成.母親的人物に喜びを伴う社会的反応を示す第3段階6,7か月~2歳頃の明瞭な愛着段階.母親の後追いをしたり,探索行動の基地†として母親を活用したりする第4段階3歳前後からの目標修正パートナーシップの段階.母子間に永続的な結びつきが形成される〔庄司順一,ほか:アタッチメント.明石書店,2008より改変〕表1

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