159Fトータルケアとしての摂食嚥下障害の対応取を維持するための必要に迫られてのことですが,食べさせてあげることは子どもが自分で食べようとする食行動を奪うことにもなります. また,親(保護者)が常に食事の介助をしていると親子の信頼関係は強くなりますが,自立を妨げます.なかには,摂食嚥下機能が悪くないにもかかわらず経管栄養を行うことが必要な子どももいます.その原因の一部は,摂食嚥下機能療法として長期にわたり食べさせてもらう練習をしてきたためと考えられます.子どもの能力を最大限に引き出し,自分で食べようと手を出そうとする意欲を引き出すことが大切です. 摂食嚥下障害のある子どもは,空腹や満腹の表現が少ないことも多く,そのなかから読み取る必要があります.特に経管栄養では,定時に一定量を注入することが多いということもあります.介助者は,日々の対応のなかで栄養必要量だけでなく空腹や満腹に注意を払うことを忘れてはなりません.食形態と食行動 食形態から考えると,摂食嚥下障害ではペースト状の食物が誤嚥が少なく安全性が高いと考えられ,そのような食形態に偏りがちになります.結果として,子どもはペースト状の食物に対して強い親和性をもつことになり,新しい食物へチャレンジする気持ちを失い,嫌がることさえあります. p.16ポイント5でも述べたように,ペースト状やとろみのついた食物は手づかみで食べることのできない食形態で,親にとっては周囲を汚されることに気を遣わなければならない食形態です.手指機能と口との協調運動を練習するためには,ペースト状の物は好ましい食形態ではないことも考えておく必要があります.子どもはもっと色々な物を食べたがっているにもかかわらず,チャレンジさせずに均一な食形態が提供されていることがみられます.小児期の食形態は,介助者が子どもの意欲も含めた反応を見て,子ども自身の選択を活かすことが必要です.食べ方が下手だからと食形態を落とし,そのために機能の向上が妨げられてはいけません.子どもは新しい食形態を最初に嫌がることもしばしばあります.好奇心や意欲・食欲が勝ったときに,新しい物へのチャレンジが始まり成功につながります. ペースト状やとろみのついた均質な形態の食物は,飲み込みやすいという特性を持つ一方,食形態としては固形物に比べて口腔への刺激が少ない物です.刺激の強さという面からは摂食嚥下機能を引き出しにくい物といえます.摂食嚥下機能の向上を目指す小児期では適切な刺激が必要です.ペーストやとろみのついた食品の誤嚥が少ないという利点だけではなく,その問題点を知ったうえで活用することが重要です.食物には,色々な食形態や味,食感があり,それを脳が感じることによって,食べる意欲が引き出されます.同じ物ばかり食卓に並んでは食欲は出ません.乳児や摂食嚥下障害がある子どもにとって,ペースト状の食物は,スプーンで食べさせてもらう食形態ともいえます.自分で食べることを目標にできる子どもは,自分で持つことのできる固形物を準備し,自分で食べる機会を奪うことのないようにします.摂食嚥下機能を引き出すトータルケア 楽しいということがなければ,その子どもが本来持つ能力を引き出すことができません.すなわち,摂食嚥下機能ばかりに目を向けて食事を考えるのではなく,食生活全体に目を向ける必要があります.そのなかで,摂食嚥下障害に対応する知識や技術が必要になり,それをその
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