2437症例でわかる小児神経疾患の遺伝学的アプローチ
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26総 論/2 遺伝学的検査技術 次世代シーケンス(next generation sequencing;NGS)の原理と技術については前項で詳述されているため,本項ではNGSの臨床応用について述べる.NGSは技術であり,DNAのみでなくRNAの解析も可能であるが,本項では臨床診断に応用されるDNAの解析について解説する.NGSでわかることは以下にまとめられる.1) DNA配列の参照配列との違い[一塩基置換,小さな欠失・挿入(small indel)]2) ゲノムコピー数の変化[比較的大きな欠失・重複(Kb以上)]3)ゲノム構造異常(転座,逆位,挿入など)この中で1)2)は一般的に用いられるパネル解析やエクソーム解析でも同定できるが,3)はゲノム解析でしか同定できない.さらに,同定率は発展途上である.したがって,本項では1)2)についてのみ解説をする. NGSの最大の利点であり特質は同時並行的に多数のDNA断片の塩基配列を決定できる点である.そのため,特に多数の遺伝子の配列決定において従来法であるSangerシーケンス法より優位性がある.コスト面のみを述べるとエクソンが数十個になるとNGSを用いた方が安くなる(NGSのコストは年々低下している).このため,原因と想定される遺伝子が複数の場合や遺伝子自体が大きい場合はNGSの優位性が高い.また,Sanger法と異なり,欠失や重複などがバイオインフォマティクスを用いることで同定できるため,マイクロアレイ染色体検査の役割も担うことができる.さらに,同一部位のカバー率(デプス)を十分に大きくすると,低頻度モザイクの同定が可能になる. 一方で,NGSの限界を理解することが大切である.NGSではカバー率が一様にならないため,特に対象遺伝子の数が多くなると,読めない領域が少ないながらも存在する.そのため,変異が同定されないからといって,変異がないとはいえない.また,NGSの方法や機器は様々であり,さらに,用いられる解析アルゴリズムもたくさん存在する.これらにはそれぞれ特徴があり,同定率などに影響する.そのため,NGSの結果を正しく理解するには,用いられた解析手法についての知識が求められる.このように技術としての限界が存在するが,最も重要なNGSの特性は,多数の多型を含むvariationが同定されることである.NGSの優位性と限界とを表1にまとめた. 小児神経領域を中心にNGSの適応疾患を表2に記次世代シーケンスの臨床応用次世代シーケンスの優位性と限界次世代シーケンスの適応疾患総 論/2 遺伝学的検査技術次世代シーケンス―応用編―次世代シーケンスにより同時に複数の遺伝子配列が決定できる.複数の遺伝子変異が関与する疾患の診断に適している.体細胞モザイクの同定が可能である.多数のvariationが同定されるため,その意義の解釈が重要である.次世代シーケンス解析に際しては遺伝カウンセリングを必ず行う.要 点

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