2437症例でわかる小児神経疾患の遺伝学的アプローチ
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276 次世代シーケンス―応用編―す.NGSは遺伝子解析技術であり,遺伝子変異が原因である疾患はすべて対象となる.しかし,上述したNGSの特性から複数の遺伝子が原因となりうる疾患が最もNGSが力を発揮する対象である. 単一遺伝子病が臨床的に疑われる疾患は遺伝子が小さければ従来のSanger法で十分対応できる.しかし,遺伝子変異が原因となるDuchenne型筋ジストロフィーでは遺伝子が大きいために解析技術としてはNGSが使用されている.これらの疾患では技術としてNGSが使用されているが,解釈や対応は従来と同じである. 臨床的に認識される疾患であるが,複数の遺伝子変異が原因となる疾患はNGSのよい適応である.遺伝子の数が少ない場合は従来の単一遺伝子病と対応はあまり変わらない.これらの多くは共通したpath-wayに存在する複数の遺伝子が臨床的によく似た疾患を引き起こす場合が相当する.具体的にはRas-MAPK系の遺伝子異常で発症するNoonan症候群やSWI/SNFクロマチンリモデリングが関連するCof-fin-Siris症候群をあげることができる.また,神経ではないが,種々のイオンチャネルが関連するQT延長症候群もよい例であり,QT延長症候群はNGSを用いた遺伝子パネル解析が保険適用となっている. さらに多数の遺伝子変異が関連する疾患はNGSでしか同定することができない.小児神経領域では自閉スペクトラム症,てんかん,知的障害などのコモンディジーズが相当する.多数の解析でこれらの30%ほどには関連する遺伝子変異が同定されることが報告されている1).しかし,これらの疾患では多くの遺伝子が対象となるために,意義不明のvariant(variant of unknown significance;VUS)も多数同定される.さらに,一つひとつの変異の影響が単一遺伝子病ほど強くなく(浸透率が100%でない),未発症の家族が同じ変異を共有することがある.そのため,結果の解釈と遺伝カウンセリングの実施が必要になる. NGSでは同一の領域の塩基配列を何度も読むことができ,この回数をデプスと表現する.デプスを大きくすることで従来法よりも格段に低頻度モザイクの同定が可能となる.変異の位置がわかっているときは定量PCRの一つであるデジタルPCRが最も感度が高い.しかし,変異の位置がわからない場合はNGSが有用である.体細胞モザイクの例として症候性てんかんの原因となる限局性皮質異形成2)があげられる.体細胞モザイクの診断には原則として罹患組織が必要であるが,末梢血で同定される場合もある.NGSが普及することで,体細胞モザイクが原因である疾患が思いのほか多いことがわかるようになった3).さらに,de novo変異と考えられていた疾患の両親が低頻度モザイクであることもあるので,注意が必要である.表1 NGSの優位性と限界優位性限界同時に複数の遺伝子配列が決定できる.配列決定のカバー率が一様ではなく,読めない部分が存在する.解析スピードが速く,コストが安い.解析方法により特徴が異なる.配列のみでなくコピー数異常が検出できる.用いるアルゴリスム(バイオインフォマティクス)が同定率に影響する.モザイクの同定に優れる.多くのvariationが同定されるため,意義の解釈が難しい.表2 NGSの適応となる疾患の分類疾患分類疾患例単一遺伝病が臨床的に疑われる疾患Duchenne型筋ジストロフィー(非欠失型),神経線維腫症複数の遺伝子変異が原因となり臨床的に認識可能な疾患Noonan症候群,Coffin-Siris症候群, Charcot-Marie-Tooth病多数の遺伝子が発症に関連する疾患自閉スペクトラム症,てんかん,知的障害体細胞モザイク限局性皮質異形成

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