13 IgG4関連疾患(IgG4—related disease:IgG4—RD)はIgG4が関連する全身疾患である.本疾患概念の成立の背景には,① 自己免疫性膵炎(auto-immune pancreatitis:AIP)で血中IgG4値が高率・特異的に上昇すること1),② AIPの病変組織にIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴的に認めること2),③ AIPには,涙腺・唾液腺炎,硬化性胆管炎,後腹膜線維症,尿細管間質性腎炎などの膵外病変が全身性に合併すること3),④ これら膵外病変にも膵組織と同様にIgG4陽性形質細胞浸潤を認め,ステロイド治療に良好に反応すること2),⑤ 以上の事実よりAIPと全身に分布する膵外病変で発症にIgG4が関連する共通の病態が存在し,これらを包括する全身疾患が想定されるようになった2)経緯がある.IgG4—RDは新しい疾患概念であり,病因,病態,診断,長期経過に関して積極的に研究が進められてきた.しかし,IgG4の役割などまだまだ不明な点が多い.本項では上記に即して,IgG4—RD発見の経緯,研究の歴史について概説する.IgG4関連疾患発見の経緯 図1に代表的なIgG4—RDの病変分布を示す.これらの疾患はIgG4—RDが提唱される以前からそれぞれの臓器特有の疾患名で独立して存在していたと考えられるが,一見まったく関係がないと考えられていたこれらの疾患群が本疾患概念提唱後,密接に関連していることが明らかとなった.本項では代表的なIgG4—RDであるMikulicz病,AIP,IgG4—RDと同義と考えられているmultifocal idiopathic fibrosclerosisについて,IgG4との関連が明らかになる以前の段階での疾患概念の成立過程,IgG4との関連が明らかになった経緯,その後のIgG4—RDが提唱された状況について,概説する.1)IgG4との関連が明らかになる以前a.Mikulicz病の歴史 Mikulicz病の歴史はSjögren症候群との異同を明確にすることに,多くの努力が払われてきた.詳細については他項を参照されたい4).1888年,Mikuliczは両側性,無痛性に涙腺と唾液腺に顕著な腫瘤を形成した42歳の男性症例を報告した5).1896年,Küttnerが顎下腺の炎症性腫瘍を報告し6),その後Mikulicz病との異同が問題となった.1933年,Sjögrenがkeratoconjunctivitis sicca(Sjögren症候群)の詳細な病態を報告した7).この後,Mikulicz病とSjögren症候群の間で疾患概念の混乱が生じるようになった.1953年,MorganとCastlemanはMikulicz病の病理所見を検討し,Mikulicz病はSjögren症候群の一亜型と結論した8).病理学の大家がこのように結論したことにより,以後欧米ではMikulicz病が独立した疾患単位として扱われなくなった.しかし現在,MorganとCastlemanが検討した症例はMikulicz病典型例とは考えにくく,彼らがMikulicz病に特徴的とした所見はSjögren症候群の典型的な組織像であっ発見の経緯と研究の歴史3Ⅰ IgG4関連疾患の概要(総論)漏斗下垂体炎肥厚性硬膜炎自己免疫性膵炎消化管病変硬化性胆管炎肝病変涙腺・唾液腺病変(Mikulicz’s disease,Küttner tumor)腎病変・泌尿器病変(前立腺病変,傍精巣病変,尿管病変)後腹膜線維症リンパ節病変皮膚病変動脈病変呼吸器病変甲状腺疾患眼病変 IgG4関連疾患の病変分布図1
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