89 本項では,IgG4関連自己免疫性膵炎(1型AIP)〔以下,自己免疫性膵炎(autoimmune pancreati-tis:AIP)〕の病態について概説する.1.自己免疫性膵炎の歴史的変遷1)自己免疫性膵炎の最初のステロイド治療例 AIPのステロイド治療例は1978年Nakanoらによる報告が最初である1).両側上眼瞼と顎下腺腫脹を初発症状とする1例の症例報告であるが,その後上腹部に腫瘤が出現する.膵外分泌能の低下と血清IgG著明高値を認め,ステロイド治療にていったん軽快するが,漸減中に再燃するという経過である.これは高率に合併する涙腺・唾液腺病変を認める典型的なAIPの臨床像を詳細に記述した優れた内容である.2)自己免疫性膵炎の病理組織学的特徴 1991年KawaguchiらはAIPの病理組織学的特徴を,膵臓に波及した原発性硬化性胆管炎の特殊型として詳細に報告した2).リンパ球・形質細胞の浸潤を伴う著明な線維化,膵管上皮は比較的正常でありながら膵管周囲には強い線維化と炎症細胞浸潤を認める.またその変化は胆管や脂肪組織にもみられる.これらの特徴をlymphoplasma-cytic sclerosing pancreatitis(LPSP)と称したが,このLPSPは現在でもAIPの病理像の根幹を成す概念である.3)びまん性膵管狭細型慢性膵炎 1992年Tokiらは通常の慢性膵炎とは異なり膵管全体が通常より細く不整な膵管像を示す特殊な膵の炎症性病変を,その特徴ある膵管像(irregu-lar narrowing)に注目し「びまん性膵管狭細型慢性膵炎」という名称で報告した3).この報告を契機とし,わが国では膵管狭細型膵炎が多く報告されるようになった.4)自己免疫性膵炎の疾患概念 1995年Yoshidaら4)はびまん性膵管狭細型膵炎の臨床像として,次の11項目の特徴をあげ,自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis)という疾患名を提唱した. ① 血清ガンマグロブリン,血清IgG上昇 ② 自己抗体の存在 ③ 膵のびまん性腫大 ④ 主膵管のびまん性不整狭細像 ⑤ 病理所見はリンパ球浸潤を伴う線維化 ⑥ 症状は,無症状か軽微な腹痛のみ ⑦ 膵内胆管狭小化・上流胆管拡張 ⑧ 膵石灰化なし ⑨ 膵囊胞なし ⑩ 時に,他の自己免疫疾患を合併 ⑪ ステロイド治療が著効5)血清IgG4上昇とIgG4陽性形質細胞の浸潤 筆者らは2001年にAIPで高率に血清IgG4の上昇を認め5),さらに2002年には後腹膜線維症の併発例で膵臓と後腹膜組織の両方にIgG4陽性形質細胞が多数浸潤していることを報告し,AIPと膵外病変を包括するIgG4が関連する全身疾患の存在を呈示した6).2.自己免疫性膵炎の病態1)自覚症状 AIPは急性膵炎のような強い腹痛を伴わないことが多く,自覚症状がある場合は上腹部不快感,胆管狭小化による黄疸,耐糖能異常による口渇感が多い.健診などでの腹部超音波やCTなどの画像検査で偶然膵のソーセージ様腫大やcapsule—like rimを指摘され,まったく無症状で診断される場合もある.病 態自己免疫性膵炎6Ⅱ 臓器別病変の診断と治療
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