2441小児IgA腎症診療ガイドライン2020
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CQ 235児に限定した研究であった.また,組織学的および臨床的軽症例のIgA腎症に対するステロイド薬の効果を報告した研究として5編の介入研究があるが,ステロイド薬以外の薬剤を併用した研究が大部分であった.ステロイド薬単独の効果について検討した報告は少ないものの,多剤併用療法ではその有効性は十分に示されている.しかし,一方で無治療やRA系阻害薬による治療のみでも良好な腎予後が示されているため,ステロイド薬投与の必要性に関するエビデンスレベルは弱いと判断した.現在まで,RA系阻害薬による治療で改善の乏しい症例に対していつからステロイド薬の投与を行うのかについて検討した報告はなく,今後の検討課題の1つである. 組織学的および臨床的軽症例のIgA腎症についての前向き観察研究は,Gutierrezらの報告のみである1).彼らは,小児および成人を含めた141人の腎機能正常(eGFR>60mL/min/1.73m2),軽微な蛋白尿(UTP<0.5g/day)あるいは蛋白尿がない症例についての長期的腎予後について検討した.治療として141人中59人(41%)はRA系阻害薬を使用したが,全例でステロイド薬・免疫抑制薬を使用しなかった.その結果,末期腎不全(end-stage renal disease:ESRD)に至った症例はなく,48か月時点での臨床的寛解は53人(37%)に認められた.蛋白尿は経過中に >0.5g/day,>1g/dayに増加したのは21人(14%),6人(4%)であり,最終観察時に41人(29%)は蛋白尿を認めなかった.以上から,軽症のIgA腎症における長期的腎予後は良好であると報告した. また,後方視的検討であるが,Higaらは軽度の尿蛋白を呈する小児IgA腎症患者106例で,治療としては約30%でRA系阻害薬,4%弱でステロイド薬治療や多剤併用療法が行われているものの,15年後の腎生存率は100%で,1人もCKD stage G3腎不全へと進行していなかったと報告している2).またTanakaらは,軽度蛋白尿(<0.5g/day)を呈し,ステロイド薬・免疫抑制薬・口蓋扁桃摘出を行わず,RA系阻害薬または抗血小板薬のみで加療した88例の成人IgA腎症患者を,血尿の程度が軽度(RBC<20),高度(RBC>20)に分けて検討した.その結果,15年後の腎生存率は血尿軽度群では83.4%,血尿高度群では100%(P=0.201)と両群に有意な差はなく,診断時の血尿の程度にかかわらず腎予後は良好と報告した3).以上から,組織学的および臨床的軽症例においては無治療またはRA系阻害薬による加療で良好な予後が示されている. 組織学的および臨床的軽症例のIgA腎症に対するステロイド薬単独治療の効果についてのランダム化比較試験(randomized control trial:RCT)・前向き研究は存在しない.Suzukiらは,組織学的所見とステロイド薬治療の効果との関係性について成人IgA腎症275例について検討し,組織学的軽症例においてはステロイド薬治療の有無にかかわらず腎機能低下を認めた症例はみられず,ステロイド薬治療によるメリットはないと報告した4).さらに,Shenらは,ステロイド薬単独治療ではないが,無症候性IgA腎症の成人86例において,蛋白尿が0.15g/day以上であればRA系阻害薬,1g/day以上であればステロイド薬を投与したところ,15%の症例では尿所見異常が消失し,22%に腎機能低下を認めたのみであり,無症候性IgA腎症の腎予後は保たれていると報告した5).一方,Harmankayaらは,血尿のみを呈した成人IgA腎症の43例中ステロイド薬+アザチオプリンを投与した21例中17例では血尿が消失し,組織学的所見の改善を認めたが,無治療とした22例中3例は0.5g/day以上の蛋白尿と肉眼的血尿のエピソードを呈し,組織学的所見も増悪していたと報告した6).解説

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