2454不安とうつの統一プロトコル 診断を越えた認知行動療法 臨床応用編
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11診断横断アセスメントと事例概念化第2章 アセスメントおよび事例概念化(※訳注:原書にて事例概念化case conseptualizationと事例定式化case formulationとがほぼ同等の概念として使われているため,本書では事例概念化で統一した)は,効果的な治療の開発・実施を目指す研究者や臨床家にとって最も重要な仕事の一つである。個々の患者が呈する精神病理の機能的理解,つまり,精神病理が発生・維持・悪化するプロセスを理解することは,事例概念化の根幹であり,エビデンスに基づく介入法を開発したり,その介入法を個別の患者に合わせて実施する土台となる。「最善のアセスメントおよび概念化とはどのようなものか?」という問いに対しては,当然ながら多くの議論が存在する。そのなかでも際立っているのは,現在最も普及している分類システムで,主としてカテゴリー分類を採用しているDSM-5のメリットとデメリットに関する議論である。 臨床家や研究者の間では,このカテゴリー分類システムがもつメリット(効率性やコミュニケーションにおける利便性など)は理解されている一方で,精神病理が次元的な性質をもつという認識も広まってきており(例:Maser et al., 2009;Brown & Barlow, 2009;Rosellini, Boettcher, Brown, & Barlow, 2015),この両者をどう理解すべきか盛んに議論されている。加えて,問題を維持・悪化させるプロセスには患者一人ひとり異なる部分があるため,アセスメントや事例概念化の際にはその個別性も考慮する必要がある。これらを合わせて考えると,アセスメントおよび事例概念化が極めて複雑な作業となる。 本章の目的は,アセスメントや事例概念化における実用的で柔軟な枠組みを提示することにある。まず,現在DSMが採用しているカテゴリー分類アプローチの改善点を論じた後,私たちが診断横断アプローチを有望な選択肢と考える理由を説明する。次に,UPを活用した,診断横断プロセスのアセスメントおよび概念化について説明する。そして最後に,診断横断的分類に関する新たな方向性を取り上げる。最後には,私たちのクリニックであるボストン大学の不安関連症センターで開発された,新たな診断横断アセスメントの方法を紹介する。1 精神障害の分類:改善の余地はあるか まず,分類(診断名を割り当てること)に関する議論から始めよう。なぜなら,ほとんどの場合,どの分類を用いるかによって,最初のアセスメントだけでなく,それに続く事例概念化や治療結果の評価の方法も決まってくるからである。分類に関する議論において重要なのは,まずDSM-5やそれ以前のDSMで採用されたカテゴリー分類システムのメリットを認識することである。カテゴリー分類は研究と臨床実践の両方にとって有用かつ必要なものである。 先行研究によれば,DSM-IVおよびDSM-5の基準を適用した感情障害の診断は,どちらも高い信頼性を示している(Brown, Campbell, Lehman, Grisham, & Mancill, 2001;Brown, Di Nardo, Lehman, & Campbell, 2001;American Psychological Association, 2013)。これはおそらく,様々な症状の組み合わせや臨床的重症度のカットオフがDSMにおいて明確に定義されているからだろう。また,カテゴリー分類は,研究者間の共通言語を確立するとともに,適切な介入法を求める臨床家へのガイドラインを提供している。介入研究では研究対象者の特性が明確に定義されるため,エビデンスに基づく治療法を文献のなかから選択する際にカテゴリー分類がその手がかりとなる。また,カテゴリー診断は,患者が抱える問題に適切なラベルづけをすることで,メンタルヘルス上の問題に対する患者自身の理解を深め,良質な医療を受けるためのセルフ・アドボカシーを促進する。最後に,(アメリカの)保険会社はカテゴリー診断システムに基づいてメンタルヘルスサービスの補償範囲を定めている。そのため,このカテゴリー分類に第 2 章診断横断アセスメントと事例概念化統一プロトコルの理論的根拠と適用ハンナ ブッチャー,ラーレン R. コンクリン

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