2459腸内微生物叢最前線
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総論 腸内微生物叢に関する基礎医学研究の現在2はじめにI消化管は,摂取した食物の消化ならびに栄養素や水分の吸収を担う器官であるが,おびただしい数の微生物が共生するという点でも唯一無二の臓器である.それら腸内微生物との共生を可能にするために,全身の免疫細胞の約60%が消化管に集中し,腸管上皮細胞とともに巧妙な生体防御機構を構築することで,腸内微生物を制御し,消化管の恒常性を維持している.腸内微生物と直接対峙する腸管上皮細胞は,抗菌分子や粘液を産生し,粘膜表面にバリアを構築することで腸内微生物の腸管組織への侵入を防止し,腸管恒常性維持に大きく貢献している.本稿では,多種多様な腸管上皮細胞が粘膜バリアを介して,どのように腸内微生物をコントロールし,その破綻によりどのような影響が生体に及ぶかについて概説する.1.多種多様な腸管上皮細胞とその役割腸粘膜は単層の腸管上皮細胞で構成されており,すべての腸管上皮細胞は,腸陰窩に存在する腸上皮幹細胞から供給される.成熟分化した機能的な上皮細胞は,吸収上皮細胞,杯細胞,Paneth細胞,内分泌細胞,Tuft細胞,M細胞に分類される(図1).吸収上皮細胞は,栄養,水分の吸収に特化した細胞であり,腸管上皮細胞の大部分を占める.吸収上皮細胞の頂端面細胞膜には刷子縁と呼ばれる微絨毛構造が発達し,その表面を糖衣と呼ばれる糖鎖の集合体が覆っており,細菌などの微生物の腸管組織への侵入を防止する.杯細胞は,粘液の主成分である糖蛋白のムチンを大量に産生,分泌することで粘膜表面を覆う粘液の恒常性を維持している.Paneth細胞は,大腸には存在せず,小腸陰窩のみに存在し,ディフェンシンなどの抗菌ペプチドを大量に産生,放出し,小腸における腸内微生物に対する防御に重要であるとともに,近接する腸上皮幹細胞にNotchシグナルを入れることで腸上皮幹細胞の幹細胞機能を維持するためのニッチとしても重要である1).内分泌細胞は上皮細胞の1%程度を占めるマイナーな細胞群であるが,食餌性脂質や糖質を感知し,コレシストキニンなどのホルモンを分泌することで消化,代謝や食欲の制御に重要な役割を果たしている.また同様にマイナーな細胞群であるTuft細胞は,微細な毛が密集した房(Tuft)のような微絨毛をもち,寄生虫感染時に寄生虫より産生されるコハク酸を認識すると,インターロイキン-25(IL-25)を産生し,2型自然リンパ球を活性化させ,その結果,粘液産生を亢進させることで寄生虫の排除に大きく寄与している2-5).M細胞はパイエル板などのリンパ濾胞を覆う上皮に散在する抗原取り込みに特化した細胞であり,glycoprotein-2といわれる細菌受容体などを介して腸管腔内の抗原を取り込み6),リンパ濾胞に存在する樹状細胞に抗原を供給することでIgA抗体産生に大きく寄与している.これらの多種多様な腸管上皮細胞によって形成される粘液層や抗菌ペプチドなどのバリア,上皮細胞と粘膜固有層に存在する樹状細胞やリンパ球の密な連携により,腸管における生体防御機構は巧妙に制御されている.2.腸管上皮細胞による構築される粘膜バリアここからは,腸管上皮細胞によって構築される粘膜バリアの詳細について述べていく.腸管上皮細胞によって構築される粘膜バリアはその性質により物理的バリアと化学的バリアの2つに大きく分類される(表1).総論 腸内微生物叢に関する基礎医学研究の現在腸管粘膜バリアと腸内微生物叢大阪大学大学院医学系研究科・免疫制御学奥村 龍,竹田 潔1 多種多様な腸管上皮細胞によって構築される粘膜バリアにより腸内微生物叢は制御されている. 粘膜バリアは,その性質により物理的バリアと化学的バリアに分けられる. 小腸と大腸では,粘膜バリア機構が大きく異なる. 粘膜バリアの破綻により,腸管炎症,腸内微生物叢の乱れ,炎症性疾患の悪化が起こる.

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