2459腸内微生物叢最前線
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各論Ⅰ 炎症性疾患・免疫関連疾患と腸内微生物叢の関連24はじめにI潰瘍性大腸炎 (Ulcerative colitis:UC) やクローン病 (Crohn’s disease:CD) などの難治性炎症性腸疾患 (Inammatory bowel disease:IBD)は欧米諸国で患者数が多い疾患とされてきたが,わが国でも患者数は増加の一途をたどっている.その病因としては,遺伝的素因,環境因子,さらには,これらを背景とした腸内細菌叢の異常(dysbiosis)や免疫制御機構の破綻が重要であるという理解がなされている.なかでも腸内細菌叢の役割は大きく,糞便を用いた腸内細菌叢解析が盛んに行われており,種々の報告がなされている.また,腸内細菌叢を含めた腸内環境を移植する糞便移植(Fecal Microbiota Transplantation:FMT)も新規治療法となる可能性が検証されており,今後の展開が大いに期待される.一方,糞便の解析で検出される管腔内に存在する細菌叢ではなく,消化管粘膜の粘液層内に存在する粘膜関連細菌叢(Mucosa-associated microbiota:MAM)が腸管内恒常性の維持や宿主免疫に関してより重要な役割を担っていることが報告されている.MAMの細菌叢構成は糞便のそれとは大きく異なることが報告されており,糞便や腸液を用いた解析ではその詳細を明らかにするのは困難であることから,内視鏡を用いた生検組織検体やブラシ擦過検体を用いた検討が実施されている.MAMに関する多くの報告は欧米からなされており,一方,日本人の腸内細菌叢は諸外国のそれと比較して独特であることが明らかとなっていることから1),わが国における検討は重要である.近年,わが国からもわれわれの報告を含めて日本人健常者や疾病罹患者のMAMに関する報告がなされており,本稿では炎症性腸疾患患者におけるMAMを中心に概説する.1.健常人における糞便腸内細菌叢と粘膜関連細菌叢近年,次世代シークエンサーの普及により約1,000種類,100兆個存在するともいわれる腸内細菌叢の解析が可能となった.糞便を用いた腸内細菌叢解析では,炎症性腸疾患や過敏性腸症候群などの消化器疾患のみならず,パーキンソン病,自閉症,動脈硬化症やNAFLDなどさまざまな全身性疾患の病態においてその関連が報告されている2).一方,糞便の解析で検出される管腔内に存在する細菌叢ではなく,消化管粘膜の粘液層内に存在するMAMが腸管内恒常性の維持や宿主免疫に関してより重要な役割を担っているとの報告が認められている(図1).MAMの細菌叢構成は糞便のそれとは大きく異なることが報告されており, Ringelらは, 健常人24名を対象として糞便と内視鏡検査下に採取した大腸生検組織検体を用いた解析を行っており,その結果, 両者の間には多様性, 菌叢構成において明らかな相違が認められることが確認されている (図2)3).また, Carstensらも健常人31名を対象とした同様の検討を行っており,やはり,大腸生検組織検体に比較して糞便検体の腸内細菌叢では多様性が低下すること,特に,Proteobacteria門,Verrucomicrobia門の占有率が低下することを報告しており,その相違性を確認している4).われわれも,少数例ではあるが,健常人とUC患者を対象とした糞便腸内細菌叢と大腸内視鏡検査下ブラシ擦過検体で採取したMAMを比較した検討を行っており,健常人では糞便検体で菌の豊富さ・種類,均等度を示すa多様性は低い一方で,UC患者では糞便細菌叢に比較し各論Ⅰ 炎症性疾患・免疫関連疾患と腸内微生物叢の関連炎症性腸疾患と粘膜関連微生物叢京都府立医科大学医学研究科消化器内科学教室髙木智久,柏木里織,内藤裕二1 炎症性腸疾患患者では腸内細菌叢の異常(dysbiosys)が認められ,病態と密接に関連している. 粘膜関連細菌叢と糞便細菌叢との細菌叢構成には相違があり,粘膜関連細菌叢と炎症性腸疾患,機能性胃腸症,大腸癌等との関連が示されている. 上部消化管と下部消化管における粘膜関連細菌叢の菌叢構成は大きく異なる. 回腸末端〜直腸にかけての粘膜関連細菌叢の菌叢構成は相似している.

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