2467性感染症診断・治療ガイドライン2020
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4 精巣上体は精巣に付着する約6~7 cmの細長い管腔器官であり,精巣上端(頭部)から始まって下端(尾部)で精管に移行している.その機能は,精巣で発生した精子の収集,精管への輸送であり,精子の成熟にも関与するとも考えられている.急性精巣上体炎は精巣上体の急性炎症であり,原因は病原微生物が尿道から精管を上行して精巣上体に到達する,精路の逆行性感染である.尿路感染症の原因となる一般細菌や,結核菌による精巣上体炎は本ガイドラインで述べる性感染症としての精巣上体炎とは分けて考える必要がある. 性感染症としての精巣上体炎の症状は,オーラルセックス単独の接触も含めた性的接触後に,急性~亜急性に発症する片側の陰囊腫脹と疼痛で,発熱を伴うことが多い.触診で精巣上体部に強い圧痛を伴い,重症例では陰囊皮膚の自潰や排膿を伴うこともある.陰囊の超音波検査で患側の精巣上体の腫大と血流増加を認める.Chlamydia trachomatis(クラミジア・トラコマティス,C. trachomatis)や淋菌が原因微生物としてあげられ,膿尿の程度はさまざまである.尿道分泌物のある尿道炎を併発しているときには,性感染症として尿道分泌物や初尿中のC. trachomatisや淋菌の同定検査を行う.性感染症としての急性精巣上体炎の治療は,各病原微生物に応じて尿道炎に準じた抗菌薬を選択する.治療期間は尿道炎と比べて長期となり,軽快後の再燃に注意を要する. 陰囊腫大を主症状とする鑑別疾患を次に列挙するが,確定診断と治療開始に緊急性を要するのは精巣捻転と精巣腫瘍である.診断のフローチャートと鑑別点をそれぞれ図1と表1に示すが,精巣捻転と精巣腫瘍が否定できない場合には,泌尿器科専門医への迅速なコンサルトを絶対に躊躇してはならない.A.一般細菌による急性精巣上体炎B.ムンプス精巣炎C.陰囊アテロームD.精巣捻転E.精巣腫瘍F.精索静脈瘤G.精巣上体結核H.陰囊水腫一般細菌による 急性精巣上体炎  大腸菌を中心とした一般細菌による精路の逆行性感染によって起こる精巣上体炎で,病原微生物や治療方法が性感染症と異なるため注意が必要である.尿路のカテーテル留置,前立腺肥大症や神経因性膀胱などの下部尿路疾患を伴う中高年男性に多い.性感染症に伴う精巣上体炎との鑑別には,性的接触の有無に関する病歴聴取が重要である.膿尿は高度であることが多く,一般培養で細菌の同定や薬剤感受性試験ができる.時に会陰部~骨盤に波及する膿瘍や敗血症に至ることもあり,特に化学療法中の担癌患者など免疫力の低下した患者では重症化しやすい.ムンプス精巣炎  ムンプスウイルス感染症に合併する精巣の炎症を指す.耳下腺腫脹や発熱に続く陰囊内容の疼痛と腫脹が主症状で,触診や超音波検査にて精巣上体ではなく精巣の腫脹を認めることで鑑別できる.発熱を伴うことがあり,両側の精巣に発症することもある.職場や家族内でのムンプスウイルス感染症の有無や発症に関する病歴聴取,耳下腺や陰囊局所の診察に加え,血清アミラーゼの上昇が補助的な診断に用いられる.わが国ではワクチンの普及によって抗体価の上昇による診断はできず,ウイルス学的検査は保Ⅰ鑑別を要する疾患Ⅱ鑑別疾患の解説と診断の流れAB急性精巣上体炎第1部 症状とその鑑別診断2

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