2467性感染症診断・治療ガイドライン2020
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60 Chlamydia trachomatis(クラミジア・トラコマティス,C. trachomatis)はトラコーマの原因であるが,眼瞼結膜と同質の円柱上皮がある尿道,子宮頸管,咽頭にも感染する.眼から眼への感染は,日本では消毒剤の使用など衛生環境の向上により減少した.また,眼の感染は自覚・他覚が容易で,受診機会があるため,結膜感染は抑制された.尿道,子宮頸管感染は,分泌物など炎症症状が軽度で,自覚・他覚されず,受診機会を欠いて長期感染が持続して,感染源となる場合が多い. 性器クラミジア感染症は,C. trachomatisが性行為により感染し,男性では尿道炎と精巣上体炎を,女性では子宮頸管炎と骨盤内炎症性疾患を発症する. C. trachomatisは,おもに泌尿生殖器に感染し,その患者数は,世界的にも,すべての性感染症のうちで最も多い.男性,女性ともに無症状または無症候の保菌者が多数存在するため,医療関係者が無症候感染者を発見することが蔓延を食い止める最善の策である. 男性では,C. trachomatisによる尿道炎は非淋菌性尿道炎の約半数を占め1~3),淋菌性尿道炎におけるC. trachomatisの合併頻度は20~30%である.男性におけるC. trachomatisの主たる感染部位は尿道で,精巣上体炎の原因ともなるが,前立腺炎においてC. trachomatisが原因微生物となりうるか否かについては,いまだ議論が多い. 女性の性器クラミジア感染症は,上行性感染により,腹腔内に浸透し,子宮付属器炎や骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease:PID)を発症する.そのうえ,無症状・無症候のままで卵管障害や腹腔内癒着を形成し,卵管妊娠や卵管性不妊症の原因となる.さらに,上腹部へ感染が広がると,肝臓表面に急性でかつ劇症の肝周囲炎〔perihepatitis,かつてのフィッツ・ヒュー・カーティス(Fitz‒Hugh‒Curtis)症候群〕を発症する.また,妊婦のクラミジア感染症は絨毛膜羊膜炎を誘発し,子宮収縮をうながすことになり,流・早産の原因となることもある.分娩時にC. trachomatis感染があれば,産道感染による新生児結膜炎や新生児肺炎を発症させることもある.このように症状や病態が男性のクラミジア感染症と比べ,女性の場合は,短期的および長期的な合併症や後遺症などが存在し,きわめて複雑である.男性クラミジア性尿道炎  男性クラミジア性尿道炎は,感染後,1~3週間で発症するとされるが,症状が自覚されない症例も多く,感染時期を明確にしえない場合も多い4).淋菌性尿道炎と比較して潜伏期間が長く,発症は比較的ゆるやかで,症状も軽度の場合が多い5).男性尿道炎の分泌物の性状は,漿液性から粘液性で,量も少量から中等量と少なく,排尿痛も軽い場合が多い5).軽度の尿道瘙痒感や不快感だけで,無症候に近い症例も少なくない.尿道を陰茎腹側より外尿道口に向かって圧迫することにより,分泌物を確認できる場合もある.確認できない場合でも,初尿沈渣中に白血球を認める.注意すべきは,男性においても無症候感染が少なからず存在していることである.20歳代の無症状の若年男性における初尿スクリーニング検査で,C. trachomatisの陽性率は4~9%とする報告6,7)もある. 男性のC. trachomatis検出法としては,初尿を検体とし,抗原検出法であるEIA法によるIDEIATM PCE Chlamydia法8)(2018年3月に販売終了),イムノクロマトグラフィー法によるクリアビュー クラミジア9)(2018年に販売終了),ラピッドエスピー®≪クラミジア≫,核酸増幅法であるTMA法,SDA法,real‒time PCR法10)(EL;Ⅰ,RG;A),TRC法(表1)が国内では使用可能である.検出感度は,核酸増幅法を用いた検査法が最も高い.抗原検出法は,検出感度でⅠ症状と診断A性器クラミジア感染症第2部 疾患別診断と治療3

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