71 尖圭コンジローマ(condyloma acuminata)は,性器へのヒトパピローマウイルス(human papil-lomavirus:HPV)感染による性感染症の1つである1,2).HPVは,現在200タイプ以上の遺伝子型に分類3)されているが,そのなかで性器病巣あるいは性器から検出される粘膜型は40種類以上に及ぶ.しかし,尖圭コンジローマの原因HPVは粘膜型ローリスク型であるHPV6または11型が約90%を占め2),発癌性と関係するハイリスク型のHPV16,18型などが他の部位に同時に感染していることもある.尖圭コンジローマは,わが国の感染症法では5類感染症の定点報告疾患の1つに分類されサーベイランスされている. また,性感染症のなかで,数少ないワクチンで予防できる疾患(vaccine preventable disease:VPD)であることは特記すべきことである. 粘膜型HPVは性的接触により,皮膚や粘膜の微小な傷や,女性の子宮頸部にある扁平上皮‒円柱上皮境界領域(squamo‒columnar junction:S‒C junction)に侵入し,基底細胞を含む分裂可能な細胞(一部は組織幹細胞)に感染する.感染後,3週~8か月(平均2.8か月)の潜伏期を経て感染部位に乳頭腫状の丘疹である疣贅(いわゆる,“性器イボ”,genital warts)として発症する.しかし,厳密には,次の理由により,感染機会を特定することは困難である. HPV感染においては,宿主の免疫学的制御によって,臨床症状が出現しない場合がある.1つは粘膜や皮膚の重層扁平上皮の基底細胞に少数のコピー数でウイルスゲノムが潜在する潜伏感染4)であり,HPV‒DNAは検出されないレベルである.もう1つはウイルス増殖が起こり,HPV‒DNAは検出されるが,性器イボは認めない不顕性感染5)である.つまり,感染してもHPV抗原に対する免疫学的制御が作動すれば無症状のまま経過することがある. 尖圭コンジローマは,視覚や接触で発見できる性感染症であることから,心理的不安として,パートナーに知られる,パートナーにうつす,再発を繰り返す,嫌悪感,などのストレスを女性罹患者の3人に1人は感じているとされる6).尖圭コンジローマは,疼痛や帯下増量,痒みなどの症状はないが,このような精神的ストレスが大きい疾患であることを理解しておく. HPV感染のうち,発癌性を有するハイリスク型HPVには,HPV16,18,31,33,35,39,45,51,52,56,58,59,68,73,82型7)などがあり,子宮頸癌のみならず,外陰癌,陰茎癌,腟癌も生殖器のHPV感染が一部で原因である.近年では,咽頭癌の半数はハイリスク型HPVによるHPV発癌であることが知られている8).一方,ローリスク型としては,HPV6,11型のほかにHPV40,42,43,44,54,61,72,81,89型などがある.なお,手足に発症する尋常性疣贅はローリスク型のHPV2,27,57型などの感染による9).症状(図1~3) 粒状の表面をもつ単独または複数の乳頭状,鶏冠状またはカリフラワー状の疣贅が外性器周辺に発生する.色は淡紅色ないし褐色で,時に巨大化する.男性では,陰茎の亀頭,冠状溝,包皮内外板,陰囊などに,女性では,大小陰唇,会陰,腟前庭,腟,子宮頸部などに,また肛囲,肛門内や尿道にも発症する.一般に自覚症状はないが,大きさや発生部位などにより,疼痛や瘙痒がみられることもある.診断と検査 感染機会の有無の確認と,特徴的な疣贅の視診により診断が可能である.病巣範囲を決めるには,腟内や子宮頸部では3%,外陰部では5%酢酸溶液10)で処理後,コルポスコピーまたは拡大鏡で観察すると感染部位が白変化して範囲が判明することもある.肛囲のものは肛門性交がなくとも自己感染で発症することがあるが,男Ⅰ症状と診断AB尖圭コンジローマ第2部 疾患別診断と治療5
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