2473小児保健ガイドブック
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■■疾患概要 「未分化(未熟)なまま」が「過剰に増殖する」性質を獲得した細胞が「がん細胞」である.小児期に生じる小児がんはわが国で年間2,000~2,500例が発症し,造血器腫瘍(血液細胞ががん化した白血病やリンパ腫など)と固形腫瘍(固形臓器の細胞ががん化した脳腫瘍や神経芽腫など)がおよそ半数ずつを占めている.抗悪性腫瘍薬による化学療法が治療の中心であることが多く,固形腫瘍に対しては手術や必要に応じて放射線照射などがあわせて実施される.■■検査・診断・鑑別 全身の臓器に小児がんは発症しうるが,がん細胞が増殖することで様々な症状が出現する.造血器腫瘍である白血病では,血液の工場である骨髄の中に白血病細胞が増殖する.造血が阻害されるため,白血球・赤血球・血小板などの正常な血球が減少する.白血病細胞の骨髄内での増殖により骨痛や発熱なども症状としてみられることもある.また,リンパ腫や他の固形腫瘍では,がん細胞の発生部位で腫瘤をつくり気付かれることが多い.周辺の臓器の圧迫による症状を併発していることもある.小児がんは,「熱が続く」「元気がない」などの症状で発症し,当初は通常の感冒などと区別がつかないことしばしばある.このような非特異的な症状が続くことが診断の契機になることが多い.一方で,縦隔腫大による気管の圧排や脳腫瘍による神経症状など,緊急的な対処が必要になるoncologic emergencyもある. がんの診断は,がん細胞を骨髄穿刺や生検などで確認することでなされる.それぞれのがんの種類によって最適な治療方針が大きく異なるため,がん細胞の性質を正確に把握し,病型の細分類を行うことが重要である.また,特に固形腫瘍では腫瘍がどこまで広がっているのか(病期)を把握することが治療強度の決定に必要である.そのために,画像検査(CT,MRI,シンチグラフィー,超音波検査)が実施される. また,がん細胞はゲノム(遺伝子の情報)異常の蓄積で起こるものであり,がん細胞がもっているゲノム異常は臨床的な性質と関係しているため,がん細胞に生じているゲノム異常を調べ,より適切な治療を選択するゲノム医療が診療に実装されている.■■対応と予後 小児がんはこの数十年の治療の進歩により治療成績が大きく向上し,以前のイメージのような不治の病ではなくなり,70%を超える長期生存率(治癒率)が達成されている. 小児がんは成人がんと異なり,抗悪性腫瘍薬が有効なものが多い.その一方で,腫瘍の増殖は速く,診断時には原発部位以外に転移していることもしばしば経験される.そのため,治療の中心は抗悪性腫瘍薬による化学療法である.造血器腫瘍では化学療法に加え,一部の難治性の患者に対しては骨髄移植などの造血幹細胞移植が実施される.また,固形腫瘍では化学療法も実施されるが,加えて手術が必要266関連する制度・法律56,57Essential point■小児がんはわが国で年間に2,000~2,500人が発症し,治療の進歩により長期生存率はおよそ70%に到達している.■化学療法が治療の中心であり,長期の入院が必要になることが多いため,入院中の生活支援や教育支援の重要性が高い.■治療終了後の晩期合併症にも配慮が必要であり,小児がん経験者自身に病状をよく理解させるとともに,フォローアップの体制整備や,就労支援など社会的なサポートの充実が望まれる.2がん・がん教育東京大学医学部附属病院小児科 加藤元博各 論I子どもの病気

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