221概 要がん細胞はヒトのなかで常に産生されているが,免疫機構で常に監視され増殖を抑制されている.免疫機構にはcytotoxic T lymphocyte(CTL),NK細胞やマクロファージなどのエフェクター細胞によって抗原を認識し,アポトーシスに陥らせるアクセルの役割を担う機構がある.反対に過剰な免疫反応を抑える目的で,regulatory T細胞や免疫チェックポイント機構とよばれるブレーキの役割を担う機構があり,これら2つがバランスをとって機能している.はじめに免疫機構をターゲットとした治療ではアクセル作用に着目した治療開発が行われ,ピシバニールなどのbiological response modifier製剤,IL-2を用いた養子免疫療法やがん特異抗原をtargetとしたDC(dendritic cell)療法や,ペプチドワクチンなどの治療開発が行われていたが十分な成果を得るに至らなかった.近年,がん特異抗原を認識し攻撃するように設計されたキメラ抗原受容体を作り出すCAR-T細胞を用いた治療が,血液がんで成果を上げ保険適用となった.しかし,固形がんではがん特異抗原の発見がむずかしく,子宮頸がんや卵巣がんを中心に臨床第I/II相試験が行われていたが苦戦している(NCT01583686).一方,ブレーキ作用に着目した治療である免疫チェックポイント阻害薬は,2011年にアメリカFDAが悪性黒色腫に対してCTLA-4(cytotoxic T lymphocyte antigen 4)抗体であるイピリムマブを保険適用してから,多くのがん種で良好な成績を得ており,分子標的薬の中心的な存在となっている.婦人科がんでもFDAでは子宮頸がん,子宮体がんを中心に広く保険適用されているが1),現在日本で保険適用となっているのは“がん化学療法後に増悪したマイクロサテライト不安定性〔MSI(microsatellite instability)-high〕を有する固形がん”に限られている.2薬理作用がん特異抗原が組織中に放出されると,樹状細胞のエンドソームに取り込まれ分解され,HLA(human leukocyte antigen) class IIと結合する.これがヘルパーT細胞のTCR(T cell receptor)で認識され活性化され,IL-2を介してCTLをアシストしてがん細胞を攻撃する.また,がん特異抗原は細胞内でプロテアソームにより分解され,HLA class Iと結合しCTLのTCRで認識され活性化される.活性化されたT細胞は標的細胞の細胞膜で重合してポリパーフォリンを形成し,蛋白分解酵素のグランザイムを侵入させて細胞をアポトーシスに陥らせる.このような仕組みは免疫機構のなかでアクセルの役割をはたし,エフェクター細胞がその中心を担っている.一方でヒトの免疫機構には過剰な免疫反応を制御するためにブレーキとして働く機構がある.その代表的な分子としてCTLA-4とPD-1(programmed cell death 1)を介した機構がある.抗原提示細胞からHLAと結合して提示されたがん特異抗原は,CTLのTCRで認識され主刺激シグナルで活5第1章 がん薬物療法 総論分子標的薬―免疫チェックポイント阻害薬
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