74 第4章 時間治療の実際―生体リズムと薬の使い方―1大腸がん,胃がん疾患の概要1.外科的切除が第一選択である.しかし,外科的な切除ができないときは薬物治療を行う 胃がん,大腸がんともに消化器固形がんの代表的疾患です.いずれも治療の第一選択は外科的切除であり,全身的要因で耐術困難な場合や局所高度進行または遠隔転移並存により根治切除が困難な場合を除き,外科的切除が選択されます. 薬物治療は外科的切除が上記の理由で適応外の場合,あるいは術前,術後の補助療法として選択されます.胃がんに対して用いられる薬剤にはフルオロウラシル(5-FU),テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(S-1),カペシタビン,シスプラチン,イリノテカン,ドセタキセル,パクリタキセルに加えて,分子標的薬であるトラスツズマブなどがあります.このうち切除不能例の一次治療にはS-1あるいはカペシタビンとシスプラチンが選択され,HER2陽性がんではトラスツズマブが加えられます.二次治療からイリノテカン,ドセタキセル,パクリタキセルが選択されてきます.術後補助療法は治癒的切除後のステージ2および3の症例が主な対象となりS-1が選択されます.一方,大腸がんに対して用いられる薬剤には5-FUあるいはS-1,カペシタビンに加えて,オキサリプラチン,イリノテカンがあります.さらにベバシズマブ,セツキシマブ,パニツムマブ,レゴラフェニブ,ラムシルマブ,アフリベルセプトといった分子標的薬もあります.切除不能例にはこれら薬剤を組み合わせた複数のレジメンが選択され,ガイドラインに従い一次から三次治療以降までの推奨レジメンが示されています.術前補助療法は切除不能例あるいは切除可能境界例に対するコンバージョンを目的とした投与が主でありレジメンの中でも高い奏効が期待できるものが選択されます.術後補助療法は治癒的切除が行われたステージ3の症例が主な対象となり5-FU系薬剤,あるいはこれとオキサリプラチンとの組み合わせによるレジメン(FOLFOX,CAPOXなど)が選択されます.治療法の概略1.がん細胞の日周リズムに合わせて効果の高い,あるいは正常細胞の日周リズムに合わせて安全性の高い投与時刻を選ぶ 時間治療による抗腫瘍効果の増強には2通りの方法が考えられます.ひとつは,がん細胞の日周リズムに合わせて,効果の最も期待できる時間帯に薬物投与を行う方法です.リンパ腫では真夜中に1),卵巣がんでは朝方にS期細胞が増加するといった報告があり2),この時間帯に合わせてS期特異性薬剤を投与するといった方法です.もうひとつは,正常細胞の日周リズムに合わせて最も有害反応の出にくい時間帯に投薬するという方法です.DNA合成能からの検討では,がん細胞の多くには日周リズムが存在せず3),リズムの消失や短時間リズムなどを示し,また細胞間では著しいheterogeneityが認められます.したがって正常細胞で毒性が最も回避可能な時間帯に投薬することで効果増強が期待できます. 抗がん薬には濃度依存性と時間依存性の2つのタイプが存在します.濃度依存性抗がん薬は接触時間が短くても濃度が一定以上あれば効力が得られるものであり,アルキル化薬,抗がん性
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