骨肉腫(osteosarcoma)は,「悪性腫瘍細胞が直接類骨あるいは骨組織を形成する腫瘍」と定義される.小児(10歳代)の膝周囲に好発する原発性悪性骨腫瘍である. 骨肉腫の病因は不明であり,具体的な原因遺伝子は特定されていない.しかし,小児期から思春期にかけて骨の伸長および改変が盛んな部位に好発すること,女性の骨肉腫発症年齢のピークが男性よりやや早いことなどから,骨発育との関連が指摘されている. 先行する疾患に続発する二次性骨肉腫として,放射線照射や骨Paget病,線維性骨異形成などに続発するものがある.また,網膜芽細胞腫,Li‒Fraumeni症候群,Rothmund‒Thomson症候群など遺伝的素因を背景に骨肉腫が発生しやすい疾患が知られている. 骨そのものから発生する原発性悪性骨腫瘍のなかで,骨肉腫は最も発症頻度が高く,原発性悪性骨腫瘍の約40%を占める.10歳代後半に発症のピークがあり,骨肉腫の50~60%が10歳代に発症する.一方で,放射線照射や骨Paget病に続発する骨肉腫は中高年に多く,中高年にもう1つの小さな発症のピークがある.性差は1.3~1.5:1で男性に多い.人口10万人あたりの年間新規発症数は0.3人程度とされており,わが国では年間に200~250人前後の新規患者が発生していると推定される. 骨肉腫は,四肢長管骨の骨幹端に好発する.骨幹端とは,長管骨の骨幹から骨端にかけて骨幅が広がる部分である.小児期における成長軟骨板は,骨幹端と骨端を境界する.骨肉腫は大腿骨遠位と脛骨近位の骨幹端に好発し,骨肉腫の約半数が膝周囲に発生する.ほかには上腕骨近位,骨盤に多くみられる. 病変部の持続する疼痛や腫脹がおもな症状である.初発症状としては運動時痛が多く,自発痛,安静時痛,局所の腫脹が続く場合が多い.外傷などを契機に診断される場合や,軽微な外傷による病的骨折を契機に診断されることもある. きわめてまれな疾患であり,関節近傍の疼痛や腫脹を主訴とする若年患者を診るときは,骨肉腫の可能性を想起することが重要である.臨床検査として,単純X線検査などの画像検査や血液生化学検査が用いられる.なかでも単純X線検査は最も簡便で有用な検査である.1身体所見 身体所見としては,局所の自発痛,圧痛や熱感,腫脹の有無を確認する.腫瘍が大きくなると,病変部の静脈怒張を伴うことがある.初診時に肺転移を有するような進行例においても,呼吸困難などの全身症状を有することはまれである.2血液生化学検査 骨肉腫では,血清アルカリホスファターゼ(ALP),乳酸脱水素酵素(LDH)が高値を示すことがある.ALP値やLDH値は化学療法の奏効時あるいは腫瘍切除後に低下することが多く,治療効果や再発・転移などの病勢の把握にも有効と考えられている.3画像検査(図1,2)1)単純X線検査 単純X線検査では,境界不明瞭で不規則な骨破壊や骨形成,骨基質の破壊,骨膜反応が認められる.骨破壊の様子は虫食い状(moth‒eaten)や侵食状(per-meated)などと表現され,いずれも増殖の速い悪性腫瘍の骨破壊パターンである.骨髄内の病変が骨皮質を破壊して骨膜に進展すると,骨膜が刺激されて骨形成が惹起され,骨膜反応が生じる.骨皮質から三角形に立ち上がるCodman三角(Codman triangle),針状の石灰化が放射状にみられるスピクラ(spicula)などは,悪性骨腫瘍を強く示唆する所見である(図 1A,B).一方で通常の骨折後の仮骨形成や骨化性筋炎など,単純X線検査のみでは診断がむずかしい場合がある.肺転移例では胸部X線写真で小円形,結節状の異常陰影を認めることがある.定義・概念病因・病態疫学臨床徴候診断・検査第Ⅱ部 各論(疾患)566小児がん8B 固形腫瘍骨肉腫第2章
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