検査で調べる血清フェリチン値も低下していれば,鉄欠乏性貧血と確定できる.乳児期後半と思春期女子に多いのは有名である.出血源の精査などの原因究明が重要である.総鉄結合能検査の併用は通常不要であり,まれな無トランスフェリン血症に限って役立つ.血清鉄が低下しているにもかかわらず,フェリチンが低下していなければ,慢性炎症などの続発性貧血を考える.鉄の放出障害を反映しており,その病態を本書第I部/第1章/1/d.造血と栄養:鉄・ビタミンなど(p.13~15)に記載した.血清鉄が低下していない場合は,サラセミアのようなグロビン合成障害を考える.なお,ポルフィリン合成が障害された鉄芽球性貧血がまれにあり,赤芽球の鉄染色が必要である. 大球性貧血ではまず,網赤血球数に注目する.網赤血球数が著しく増加している場合は,MCVが大球性に傾くので注意する.網赤血球数が増加していなければ,DNA合成障害による赤血球成熟異常である巨赤芽球性貧血を考える.血清VB12と葉酸に異常がない場合は,骨髄穿刺を実施する. 正球性貧血には多様な疾患が含まれる.網赤血球数が増加し,溶血所見が明らかであれば,Coombs試験をまず行い抗赤血球抗体の関与を調べる.Coombs試験が陰性の場合は,赤血球形態に注目する.球状赤血球や破砕赤血球を特徴的に認めれば,病態の絞り込みに有用である.ただし,球状赤血球の判定は必ずしも容易ではない.溶血性貧血の診断に酵素活性測定,ヘモグロビン分析,遺伝子解析を要する疾患に遭遇する機会も小児科医には多い.なお,伝染性紅斑罹患時に初めて診断される溶血性貧血が多いこともよく知られている. 網赤血球数が正常または減少した正球性貧血では,赤血球単独か,白血球や血小板も減少しているかで区分する.貧血だけなら赤芽球癆,腎性貧血を鑑別する.他系統にも異常があれば白血病などの造血器悪性疾患,再生不良性貧血などの鑑別へと進 5.血液・造血器疾患のおもな症候と鑑別31血液・造血器総論第1章表1◆貧血の鑑別診断MCV網赤血球追加検査疾患<80血清鉄↓フェリチン↓鉄欠乏性貧血(慢性出血,食餌性)血清鉄↓フェリチン↑/→続発性貧血(炎症性)血清鉄↑/→フェリチン↑/→先天性Hb合成障害(サラセミア),慢性鉛中毒,鉄芽球性貧血(まれ)80~100↑(>10万/μL)I.Bil/LDH↑ハプトグロビン↓【赤血球形態異常+】遺伝性球状赤血球症 遺伝性楕円赤血球症,赤血球破砕症候群,マラリア【Coombs+】温式自己免疫性溶血性貧血 新生児溶血性疾患(血液型不適合妊娠) 寒冷凝集素症,発作性寒冷ヘモグロビン尿症(まれ)【形態・Coombs正常】赤血球酵素異常症,Hb変異↑/→I.Bil/LDH→急性出血(出血直後は網赤血球正常),脾機能亢進症,未熟児貧血↓/→クレアチニン↑エリスロポエチン↓腎性貧血↓(<3万/μL)血小板→骨髄 赤芽球低形成Diamond—Blackfan貧血,急性赤芽球癆(aplastic crisis),続発性貧血,後天性赤芽球癆(まれ)血小板↓骨髄 低形成再生不良性貧血,放射線,抗腫瘍薬血小板↓骨髄 異形成,芽球白血病,骨髄異形成症候群,骨髄占拠性病変>100↑I.Bil/LDH↑ハプトグロビン↓上記溶血性疾患(網赤血球増多のためMCV増加)↑/→VB12・葉酸↓骨髄 巨赤芽球VB12・葉酸欠乏症,遺伝性葉酸吸収不全症(まれ),Imerslund—Gräsbeck症候群(まれ)→肝機能甲状腺ホルモン新生児期,甲状腺機能低下症,肝不全,チアミン反応性貧血(まれ)↓血小板→骨髄 赤芽球低形成Diamond—Blackfan貧血,congenital dyserythro-poietic anemia(まれ)血小板↓骨髄 異形成骨髄異形成症候群血小板↓骨髄 低形成再生不良性貧血MCV:平均赤血球容積,Hb:ヘモグロビン,I.Bil:間接型ビリルビン,VB12:ビタミンB12.
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