第1部 必須編12また,この回数が変更された背景として,「過重労働による健康障害の防止やメンタルヘルス対策等が事業場における重要な課題となっているため,産業医の業務をより“効率的かつ効果的”にする必要がある」とされています.産業医による職場巡視が以前に比べ,軽視されるようになったわけではないことに注意が必要です.看護職の職場巡視は,法的義務づけがありませんが,産業保健スタッフの一員であり,産業看護の活動には,現場を知ることが不可欠ですから,衛生管理者や産業医の職場巡視に同行するか,別途同等の巡視を行うかを実現したいものです.なお,看護職が衛生管理者として選任されている場合には,当然上述した週1回以上の巡視が必要になります.2 職場巡視の意義臨床領域の「診察」を,各種検査を含めて広義にとらえた場合,産業保健における「診察」には職場巡視が含まれると言えましょう.産業医にとって職場巡視は,臨床医の診察の一部にあたります.産業保健では,人と人を取り巻く(広義の)職場環境の双方を診る視点が求められるからです.軽視してよいわけがありません.産業医が職場巡視を拒否する,あるいはないがしろにするのは,臨床医が診察の一部を端折ろうとしているのと同等とさえ言えます.このことは,産業看護職でも同様です.Ⅱ│職場巡視で何をみるか1 職場巡視で観察できること一般に,職場巡視の目的というと,工場などで,騒音,粉じん,化学物質,放射線などの作業環境面,重量物取り扱い,振動工具使用などの作業面の有害性に関する現状の確認,休憩所,トイレなどの設備面の衛生,整理整頓といった問題の評価が中心に据えられがちです.健康診断の章でも触れましたが,化学物質の中には抑うつや不安などの精神症状を引き起こすものがあります.それらを扱っている職場では,作業環境測定の結果とともに,実際の使用現場を確認する必要があります.化学物質中毒は職業性疾病ですから,精神症状がそれによるものであった場合,見落とすこ
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