2509産婦人科医療裁判に学ぶ
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167第3章 医療裁判Q & A 被告の開設する産婦人科医院において妊娠した5胎中2胎のみを残すための減胎手術を受けた原告X1(昭和55年生まれ,減胎手術当時34歳)とその夫である原告X2が,手術時の多数回の穿刺や感染症対策の懈怠,手術方法の選択の誤り等が原因で胎児を1胎も救えなかったと主張し,被告に対し計2,340万9,139円の損害賠償請求を行ったものの,被告医院に過失が認められないとして請求が棄却された事案です(p.101~102の表1参照).※ なお,本判決に対し原告が控訴した控訴審では,穿刺針の選択および穿刺回数につき医師の過失が認められ,この穿刺による肉体的・精神的苦痛に対する慰謝料等合計55万円の支払いを命じる一部認容判決(確定)がなされています. 「手術I」とはp.101~102の表1の6月19日時の手術,「手術II」とは同6月22日時の手術を指します. 争点1: 手術IIにおいて,16ゲージの穿刺針を用い,1胎につき3回を超えて穿刺したことの適否 判 断:16ゲージの穿刺針の使用が医師の裁量の範囲を逸脱するものとはいえないこと,1胎につき3回以内の穿刺回数に止めなければならないという医学的知見が一般的に確立していたとはいえないこと,手術IIは通常の場合よりも難度が上がっていたと考えられることなどから,過失は認められないとしました(なお,控訴審裁判所は,16ゲージの穿刺針を用いて約30回もの多数回にわたり穿刺した点につき医師の過失を認めました). 争点2: 手術IIの術中および術後における感染症対策の適否 判 断:入院中に抗菌薬の投与を行っていたこと,入院中のCRP値や体温などから感染症を疑うべき症状は認められていないこと,性器出血が生じていたものの減胎手術後の損傷や血腫から通常生じ得るものであることから,抗菌薬投与の継続や投与量の増量の必要性はなかったとして,過失は認められないとしました. 争点3: 手術Iにおいて経腟生食法を選択したことの適否 判 断:減胎手術において経腹KCL法をとるべきとする医学的知見や経腟生食法が不適切事案の概要おもな争点と裁判所の判断4.確立された知見のない分野での 医療水準に関する事例のQ & A減胎手術における手技,術式,感染症対策等について医師の注意義務違反が否定された事例(大阪地裁令和2年1月28日判決,LLI/DB L07550067) 「第2章2.医療水準と過失―7.確立された知見のない分野での医療水準」(p.100~105)で取り上げた,5胎中2胎を残すことを目的とした減胎手術後,生児を得られなかった事例で,減胎手術を行った医師の過失を否定した裁判例について,医師からの質問に弁護士が答えています.:多胎妊娠,減胎手術,感染症対策,未確立の医学的知見Key words

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