B.ブリナツモマブの副作用第4章 新しい治療法における合併症対策るB-ALL細胞への免疫反応を惹起することで抗白血病効果を発揮します(図1).そのため,CD19抗原をもたない大部分の血液細胞やその他正常細胞には影響せず,通常は貧血や血小板減少,正常白血球減少(特に好中球減少)をきたすことはなく,輸血が必要になることも,細菌・真菌による重篤な感染症を起こすことも非常に少ないのが特徴です.この点が,白血病細胞のみならず正常細胞にも少なからず影響する従来の殺細胞性抗がん剤を用いた化学療法との大きな違いです.実際,2021年に北米Childrenʼs Oncology Group(COG)とヨーロッのグループより,高リスク再発・難治B-ALLに対する同種血細胞移植までの強化療法としてブリナツモマブと通常化学療法とを比較した第III相試験の結果が相次いで論文発表されましたが,いずれの試験でも,ブリナツモマブ投与で有意に無病生存率が高く,重篤な副作用も少なかったことが報告されています3)4).ただし,CD19抗原をもつ正常B細胞はブリナツモマブの標的になりますので,正常B細胞が減少する結果,低ガンマグロブリン血症が起こります.このようにブリナツモマブは従来の化学療法と比較して安全性が高い治療といえますが,ブリナツモマブ特有の副作用であるCRSや神経学的事象には注意が必要です.これらは患者T細胞が活性化・増殖する際の反応によって起こると考えられています.ほかに,腫瘍崩壊症が起こることもあります.ただし,CRS,神経学的事象,腫瘍崩壊症はいずれも,治療開始前における骨髄中の白血病細胞比率が高い場合にリスクが高く,骨髄中の白血病細胞比率が低い状態,あるいは微小残存病変(minimal residual disease:MRD)が検出されるレベルで治療を開始したほうが安全かつ治療効果も高いことが知られています.その点において,ブリナツモマブは再発・難治B-ALLの寛解導入療法としてよりも,強化療法としての位置づけが適していると考えられます.図1 ブリナツモマブの作用機序と副作用T細胞をB-ALL細胞に誘導ブリナツモマブリンカーで結合抗CD19抗体の抗原結合部位B-ALL細胞(正常B細胞)患者自身のT細胞T細胞増殖・活性化腫瘍崩壊症候群低ガンマグロブリン血症細胞死抗CD3抗体の抗原結合部位CD19CD3T細胞を活性化サイトカイン放出症候群神経学的事象鑑別診断は?発熱を含めたCRSについては,特に初回投与時は白血病や直前の化学療法の影響により好中球減少を伴っている場合もありますので,感染症である可能性は常に念頭におき,必要に応じて血液培養の採取や抗菌薬投与を開始する必要があります.特に,通常CRSが起こる投与開始初期では??185
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