2511はじめて学ぶ子どもの下痢・便秘
3/6

二分脊椎であっても,排便に関係する内・外肛門括約筋や肛門挙筋などの筋肉は正常に存在し,腸管運動に関係する腸管壁内の神経細胞も正常に存在する.しかし脊髄神経損傷によって外肛門括約筋や肛門挙筋などの筋肉のコントロールができなくなる.主体は,①便意に対する知覚障害,②外肛門括約筋の収縮機能障害,である.①直腸に便塊が達して直腸壁が伸展されても便意として感知できず,肛門挙筋の弛緩や収縮がうまくいかない.②外肛門括約筋を随意的に収縮できないために肛門管内に便が存在しても肛門が開放状態となって便失禁が起こる.また直腸内に便が貯留して大きな便塊が形成されて,便秘・便失禁が起こる.臨床症状二分脊椎症の症状は二分脊椎の部位より尾側に現れ多岐にわたる.代表的な症状は排尿・排便にかかわる排泄機能障害,下肢の痛みや感覚障害や歩行障害などである1)(表1).消化器症状は難治性の器質的便秘症とそれに伴う便失禁・遺糞症である.合併症と予後二分脊椎症ではその病型によって合併症を起こす頻度は変わってくる.顕在性二分脊椎症の代表的疾患である脊髄髄膜瘤では,80%以上に水頭症やChiari奇形2型を合併する.一方で潜在性二分脊椎症では無症状のまま経過することもあり,合併症もなく健康な人と変わらない生活を送っている症例も存在する.予後については,近年の医学水準の向上により,脊髄髄膜瘤の平均寿命は延長し,患者のQOLは大きく改善してきているが,生涯にわたって水頭症の管理,排尿・排便の管理や身体機能のリハビリテーションは必要である.二分脊椎症による排便障害に対する治療の目的は,①便失禁を防ぐこと,②直腸内に便の貯留を少なくし,残便を極力少なくして,腹部膨満感をなくすように排便管理をすること,である.以下に具体的な排便管理について示す.①  便性を保つ:便性は食事内容や患児の体調によって変化するので,規則正しく食事を摂取し,偏食をさけて食物線維を含んだ食品などをバランスよく摂取する.また適度な運動も必要である.②  排便習慣:食後にトイレに座る習慣.また排便状態を把握するために排便日記をつけること.③  薬物治療:腸内容物を軟らかくして排泄を容易にする下剤や腸の運動を調節して排便を促す薬物の使用.薬物の効果は個人差があるので,排便日記を参考にして患児にあった下剤や投与量を選択する.④  浣腸・摘便:便が直腸に貯留して出ないときに浣腸をして直腸内の便貯留を解消したり,浣腸で排便できないときには指を使って便を出す,摘便を行うなどして便貯留を解消する.⑤  洗腸:浣腸では結腸全体に貯留した便の排泄は困難であり,結腸全体に貯留した便を排泄して便失禁や腹部膨満を解消する.洗腸の方表1 二分脊椎症の症状中枢神経消化器腎・泌尿生殖器運動器皮膚その他脊髄係留症候群便秘排尿障害下肢運動機能障害感覚障害肥満延髄・脊髄空洞症便失禁尿失禁側弯褥瘡発達障害尿路感染後弯潰瘍学習障害水腎・水尿管下肢関節拘縮膀胱尿管逆流膝・股関節脱臼性機能障害内反足下肢変形101第3章 便 秘D 原因と代表的な疾患

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る