┃18┃疾患概要 ・胸痛をきたしうる疾患は数多く存在する.高齢者においては,冠動脈疾患や呼吸器疾患,食道疾患の有病率が増加する一方で,非特異的な症状を呈することも多くなるため,鑑別に苦慮することも多い.・また,致命的になりえ,緊急の処置を要する疾患(心筋梗塞,大動脈解離,肺塞栓症)も多いため,早急な診察,鑑別診断,治療を必要とする.疾患を特徴づける症状と身体所見 ・図1に胸痛患者診断のためのフローチャートを示す.まずは,バイタルサインや意識状態から,緊急性の高い疾患を除外する.バイタルサイン,酸素飽和度の確認,外傷の有無,問診による性状,部位,持続時間,誘因,随伴症状,既往症の確認や聴診による心音,呼吸音の確認を行う.・圧痛・叩打痛の有無,下腿浮腫の有無も重要となり,全身をくまなく診察する必要がある.疾患を特徴づける検査値異常 ・血算・生化学(腎機能,肝機能,電解質〈Na,K,Cl,Mg,Ca〉,心筋逸脱酵素),BNP,Dダイマー,動脈血ガスなどの血液検査,心電図,単純X線,心臓超音波検査,CT検査(造影)などを行う.確認しておくべき合併症と想定される症状変化・高齢者では,若年者と比較して見かけ上の重症度が低く見えることがあり,急激に病態が進行する可能性があるため,注意が必要である.・ベースにmultimorbidityが存在する可能性が高いため,胸痛をきたす原因が1つとは限らないことがある.治療の考え方・高齢者では,救命のために侵襲性の高い治療が必要なときに,若年者と比較して治療が控えられることもあるが,患者の年齢のみではなく,患者背景などを複合的に評価して決定しなければならない1).・しかし,逆に望まない過剰な治療を行ってしまうこともあるため,002胸 痛循環器系a●高齢者では,特異的な随伴症状に乏しいことが多く,また,患者自身で症状や経過を正確に伝えることができないことも多い.そのため,同伴する家族にもしっかりと話を聞く必要がある.●胸痛を主訴として受診する高齢者は若年者と比較して死亡率が高く,致死的な病態を見逃さないよう初期評価を行う必要がある.Essential Points
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