2524発達障害のある子へのことば・コミュニケーション指導の実際 改訂第2版
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21コミュニケーションの手段と話題 コミュニケーションの手段とは,他者とのコミュニケーションの際に必要な道具である.実際の道具としては,話しことばの他に,ジェスチャーやサイン,文字などがある. コミュニケーションをとる際には,基本的には共通の話題が必要である.共通の話題がなく,例えば二人で話しているとすれば,それは互いに独り言を話しているに過ぎない. 発達障害のある子どもの場合,この共通の話題が少ない場合が多い.話題が限られると,子どもは自分の興味のある話ばかりをしたりする.例えば子どもは電車やゲーム,キャラクターの話に終始し,大人の話には全く興味を示さない場合がある. こういう子どもの場合には,大人の話しかけや質問に返事をするなど,初歩的なことから指導をはじめる必要がある.こうやって,人の話に耳を傾けるよう仕向けていくのである. 大人の話は面白くない,役に立たない,説教ばかりする,と話す子どもがいる.大人は「命令ばかり」と,内心では怒っている子もいる.こういう場合は,大人の方が子どもの話に耳を傾ける必要があろう.話題は,本人の興味の対象でもあるが,それが他の人達と大きく離れてしまうと,不適応につながってしまうことがある.子どもとのコミュニケーション場面では,共通の話題を作り出すような心構えが必要ともいえる. なお,話題の内容と理解年齢の関係は深い.当り前だが,2歳の子どもに国際政治の話をしてもわからない.発達障害のある子とのコミュニケーションでは,このようなミスマッチが起こりやすい.子どもにとって難しすぎる話題であれば,子どもはきっと興味を示さないだろう. 逆に,子どもの理解力を幼く見積もって話せば,子どもはバカにされていると感じ,コミュニケーションへの意欲を確実に減らすに違いない.大人は子ども目線に立って,理解力を踏まえながら話題を探っていく必要がある.2思考の道具と歪み 自分で考える時に使うのも,ことばである.ことばによって,時空を超えて過去や未来にさえ行くことができる.ただ,思考の中身は沈黙されればわからない.本人は何を考えているのかがわかりにくくなる. 「嫌い」と,「嫌いなことはしなくていい」にははっきりとした差異がある.「嫌い」は3歳くらいになると使うようになるが,“自分自身の感じ”といえる.“感じ”だから,何らかの影響を受けて変化することがある. ところが「嫌いなことはしなくていい」は,“自分なりの考え方”である.このように自分なりの考え方が生まれてくるのは,6歳以降とされる.子どもが,自分なりの考えを言語化しはじめると,これを変えるのは極端に難しくなる.考えに至るまでの自分流のプロセスの中で,その理由も含め,論理的ではなくとも,ある種の「理屈」ができ上がっている可能性があるからだ. それに対して大人が反論を試みても,頑として耳を貸そうとしなかったりする.子どもは,反論もせず沈黙したままで不服従を貫き通した三つの役割と課題子どもの発達にとり,重要なことばの役割として,以下の三つを上げることができる.なお,その役割とともに,発達障害のある子で起こりやすい問題や対応についても紹介する.― 湯汲英史ことばの働きとその発達第1章1

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